「技術力で世界に存在感を」

 

昭和電工社長
日本化学工業協会会長

大橋 光夫氏

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「日本の化学産業のプレゼンスを高めたい」。日化協会長就任直後の記者会見での第一声だった。「それには技術力しかない。強い競争相手と競り合いながら、存在感を発揮していく。昭和電工のフィロソフィーも同じだ」と、言い切る。

━日化協会長に就任しての第一声は「日本の化学産業のプレゼンスを高めたい」でした。どんな思いからですか。

日本の化学会社は欧米の化学会社に比べるとスケール面で見劣りがする。自動車とか鉄鋼メーカーは、世界に伍して十分なプレゼンスをもっている。従って日本の化学会社が世界に発信するためには技術力しかない。幸い日本の先端技術は、決して世界に見劣りしていない。これをさらに磨いて世界をリードしていく。その意欲と覚悟を持ちたいと思った。

 もう一つは、アジアだ。アジアが21世紀の成長センターであることは間違いないが、まだ欧米のようにまとまっていない。日本はアジアに積極的にアプローチし参画し、対話していくことが必要だ。日本は今、アジアの中心的存在として、それなりの調整機能をもっていると思う。またそれが期待されている。アジアがまとまり、欧米と3極体制ができれば、日本にはまた新しい役割も出てくる。

━それまでには、時間もかかりますね。

そう。一つの方法として、眞に権威のある国際会議を日本で開催することを考えたらどうか。欧米の有力企業だけでなく、アジアからも参加してもらう。アジアを3極目に加えて、今までアジアをブロックとして意識していなかった人たちにも「もう一緒にやっていく時代ですよ」ということを理解してもらう。具体案はこれから検討するが、やる以上は成功させたい。

━日本の化学会社は、ようやく業績が回復してきました。現状をどう見ますか。

原油高が一時的なものという見方から、長期的に継続するというように変わってきた。OPECの動きを見てもそうだ。いつまでも原油高と製品安のサンドイッチという苦しい状況を続けていてはいけない。早く原油価格を反映した価格体系を確立する。顧客やその先のユーザーにもご理解をいただく必要がある。

 前述のように、日本の化学工業はスケール面で劣っており、研究開発、技術開発に力を入れていくしかない。そのためにも研究投資が可能なだけの収益性は確保しなくてはならない。最低でも経常利益率10%、営業利益率15〜20%は必要だ。技術力の強化は単に企業や、業界の問題だけではなく、国益という点からも重要と思う。

━石化業界はどうですか。まだ課題が多そうです。

2年前まで石油化学工業協会の会長職にあったが、今のエチレン740万トンというのはどうか。このところは予想以上に好調だが、マーケットは基本的に中国への依存度が高すぎる。中国では各地にプラント建設が進んでいる。徐々に汎用品を日本から輸出するチャンスは減っていくだろう。場合によっては日本に入ってくるようになる。上海や華南地区からだと、内陸部に運ぶより、日本向けの方がいい条件で輸出できる場合もあるのではないか。

 日本は740万トンのエチレンがいつまで維持できるかとなると、悲観的にならざるを得ない。幸い当社は、すでに2000年に2基、75万トンあったクラッカーを1基、60万トンに落とし、30億円の合理化を実現した。その後の技術改良や手直しによって、現在はその1基で65万トン以上のエチレンを生産している。

━全社的な事業再構築、経営改善計画にも取り組んでこられました。

6年前は最悪の状態だった。そこで2000年から前半の3年間を「チータ・プロジェクト」として、構造改革に取り組んだ。600億円の連結欠損金をゼロにする。7000億円あった有利子負債を6000億円以下にするのが目標だった。当時は「そんなにやれるかな。できればベストだが」といわれたが、やり通すことができた。社員の間の危機感がカルチャーとして定着したのが大きい。

 2003年から次のステップとして、成長戦略「スプラウト・プロジェクト」に入った。ちょうど今その半分が過ぎたところだが、これも計画通り進んでいる。05年には有利子負債は5200億円を切ることができそうだ。ただ、その水準ではまだ十分とは思っていない。スプラウト、つまり将来の「芽」をもっと大きく伸ばす。そのためにも開発のスピードアップをもっと図らないといけない。

━新しい「芽」にはどんなものがありますか。

その種を公開するのはもう少し待ってほしい。ただ当社は、化学会社の中でもユニークな歴史と技術をもっていて、カーボン、セラミックス、アルミナといった金属や無機化学に強い。これらの技術を掘り起こし、有機化学と無機化学を融合させるのをコンセプトにしてきた。旗印は「個性派化学」だ。

━有機と無機の融合などは確かに個性的です。期待も大きいのでは。

具体的製品がすでに実りつつある。ハードディスク(HD)がその一例だ。表面処理には無機の技術が限りなく必要だが当社はこれに強い。いま、三菱化学からシンガポールの事業を譲り受け、台湾の会社からも譲り受けて、当社は世界ナンバーワンの生産規模と技術をもつHDメーカーになった。これからも新しい「芽」はどんどん出てくる。注目していただいていい。