皆から「元気があるねと言われる会社に」と小野社長

 

積水化成品工業

小野 恵造 氏

積水化成品工業の新社長に小野恵造・前常務が就任して間もなく3か月余になる。創業いらい発泡プラスチックの総合企業として成長を遂げてきた積水化成品工業が新中期経営計画「DASH50」をベースに成長性の高い高機能材料を主軸とする企業への"変身"を遂げようとしている重要な節目での登板とあって世間の注目度は高い。変化の激しい時代だけに、1973年京大工学部卒の56歳という若さを生かしての果敢な決断と行動力に期待する向きが少なくない。時を同じくして二つの業界団体「発泡スチレン工業会」と「発泡スチロール再資源化協会」の会長職にも就き、リサイクル活動の面でのリーダの役割も担っていくこととなった。厳しい経営環境の中で使命をどう果たしていくかを聞いてみた。

━平成15年度の連結業績は減収・減益となりました。その要因としては何が挙げられますか。

当社は、01〜03年度を目標年度とする中期経営計画「K-PLAN45」によって再成長の基盤作りに取り組み、一定の成果を上げてきた。しかし残念ながら、原料価格の予想以上の高騰でその多くが減殺されるかたちとなった。当然、製品価格の改定にも必死で取り組んできたが、市場の抵抗が強く狙い通りの転嫁ができずにきた。減収・減益の最大の要因はこの点にあると言って過言でない。とは言え、成長分野への資源の投入が遅れたり不足したりするなどの反省材料もいくつかある。

━そうした反省も踏まえてこれから実現していくことになる成長プランをざっとご紹介下さい。

「K-PLAN45」のリベンジ、つまり新中期経営計画「DASH50」を着実に実行していくこと、これが基本だ。「DASH50」では、06年度における連結売上高を03年度の784億円から953億円に拡大、そして経常利益を23億円から53億円に増やすとの目標を掲げている。当期利益は前期の14億円を30億円に拡大、ROAについては2.6%を5.6%に引き上げる計画だ。
 こうした目標をクリアしていくには「発泡プラスチック事業の再構築」と「高機能材料事業の拡大」━の2点の着実な実行が不可欠だ。前者の実現に当たっては、(1)既存事業の利益体質の構築(2)高機能ビーズの事業拡大(3)環境事業の確立の━3点に重点的に取り組んでいきたいと考えている。後者については、有機微粒子ポリマー「テクポリマー」の光拡散分野での拡販を最重要課題に掲げて目標を達成していきたい。
 要は、伸ばすべき分野に人材と資金を重点的に投入して効率良く成長・発展を遂げていくようにするということだ。さいわい、この3年で芽が出始めた新製品がいくつかある。また財務内容の改善によってあるていどの規模の投資も可能になってきた。さらに言えば、全ての事業部門のリーダも若返って活力が増してきた。再成長できる条件はかなり整備できてきたと言ってよい。

━伸ばすべき製品としてはどんなものが挙げられますか。

高機能ビーズの一つである複合発泡体「ピオセラン」や、先に述べた「テクポリマー」、さらにはEPSのリサイクルビーズ「エプスレムERX」━などが代表例として挙げられる。
 「ピオセラン」はポリスチレンとポリエチレンの複合発泡体で、耐衝撃性、耐薬品性、剛性の3点を併せ持つ点が評価されて市場が急速に拡大しつつある。従来は使い捨て梱包材が主な用途であったが、最近は自動車のティビアパットやフロアスペーサー、あるいはバンパーの構造材料等々に活発に採用されるようになってきた。帯電防止性品種や耐熱性品種など高機能グレードを開発してきた努力も実を結びつつあるわけで、今後は日本と台湾に続いて中国でも自動車部材やIT関連梱包材として大きく伸ばしていきたいと考えている。
 「テクポリマー」は、優れた光拡散性能が評価されて塗料、化粧品、光拡散材料━の各分野で順調な成長を遂げている。中でも伸びが大きいのは光拡散材料分野で、液晶ディスプレイの光学フィルム向けやプロジェクションテレビの光拡散材向けを中心にこの1年で需要が急拡大してきた。ニーズにきめ細かく対応していくため開発した非真球状微粒子「LMXシリーズ」も好評だ。光拡散フィルムの最大需要分野である薄型液晶テレビの全世界における需要は03年で400万台に達したと見られているが、「テクポリマー」使用のフィルムはそのうちのほぼ60%を占めていると想定される。薄型液晶テレビの全世界の需要は06年には2200万台に拡大すると見られているので先行きが楽しみだ。タイミングよく生産・販売体制を拡充していきたい。差し当たり、来年5月の完工を目標に滋賀工場の設備を現在の年産800トン能力から1,400トンに増強することにしている。
 「エプスレム」は、家電等の使用済みEPS製梱包材やPS製廃家電製品などを当社特有の技術によって最大60倍の倍率の発泡ビーズに変えたもの。専用の押出機を開発して昨年10月から事業化しているが、耐衝撃性、耐熱性、清潔感といった特徴に加え、クローズド・リサイクル性に優れている点も評価されてシャープの液晶テレビの包装材に採用されるなど滑り出しは上々だ。家電やOA機器さらには玩具などの包装向けに大きく伸ばしていきたい。04年度の販売目標は1,000トン、06年度には6,000トンに拡大したい。中国や東南アジア地域でも紙やダンボールに換わる省資源型有力包装材料として普及していくと期待している。

━海外での事業展開についてはどんなことを考えていますか。

アジア地域全域に安定した独自の市場を構築していくようにしたい。中心はやはり中国となる。中国では、この7月から上海で「ピオセラン」をはじめとした各種高機能発泡樹脂の販売会社「積水化成品(上海)国際貿易有限公司」の営業活動を開始したのに続いて、来年8月からは天津経済技術開発区で「ピオセラン」の生産活動をスタートさせる計画だ。自動車部品やIT関連製品の梱包材として伸ばしていく考えで、当面の設備能力は年産1,000トンだが08年には2,000トンに拡大したい。現在の当社の海外の事業拠点は台湾、シンガポール、タイの計4カ国だが、「ピオセラン」のような高機能複合発泡体は欧米でも十分安定需要を確保していけるはずなので、ユーザーの動きに合わせてタイミングよく進出していきたい。

━他方、汎用製品の収益力の向上についてはどんな手を打っていくことになりますか。

発泡スチレンビーズの「エスレンビーズ」の場合も発泡スチレンシート「エスレンシート」の場合も最大の悩みは原料高が続いていることにある。今後も楽観は禁物だ。このため、最重要テーマはやはりコストダウンの徹底ということになる。ついては、プラントの思い切った集約化と省人化を早急に実現していきたい。
 また、「エスレンビーズ」も「エスレンシート」も採算性に問題のある汎用品種の占めるウエートをもっと引き下げていく努力が必要だ。ロースタック品種など高付加価値品種を育成するとともに、ラミネート丼向けなどの不採算部門のコストダウンと価格改定による採算性の改善にも力を入れていきたい。

━最後に、小野さんが目指す積水化成品工業の将来像を一言で表していただきたい。

需要家をはじめとした関係者の皆さんから「元気のある会社だね」と言ってもらえる社になることだ。それには、私はむろんのこと社員の皆が全ての面で改革に挑戦する気構えを持つことが大切で、ついては、一人ひとりが明確な目標を掲げてその実現を周囲に宣言することから始めるようにしたいと考えている。昨日と同じことをやっていたのでは、厳しい生存競争を生き抜いていけない。自らがどんどん変っていかねば明日はないことを肝に銘じていきたい。