『市民との対話のさらなる拡充を』

 

日本レスポンシブル・ケア協議会地域対話部会長
(三井化学/環境安全役員付)

岩本 公宏 氏

 K.IWAMOTO

 有力消費者団体や工業地域社会の人々の間で最近その存在が急速にクローズップされ始めてきた事業者団体の一つに「日本レスポンシブル・ケア協議会(JRCC)」——が挙げられる。これまで交流が乏しかった化学業界と一般市民との間に対話の場「対話集会」を設け、各地で環境・安全問題全般について情報と意見を活発に交換し始めたのが評価されてのものだ。対話集会に参加した市民の間には、長年抱いてきた化学に対する疑問や不安の一部は集会における質疑応答を通して解消できたと発言する向きが少なくない。そこで、この活動の推進役を務める同協議会地域対話部会の岩本公宏部会長(三井化学・環境安全役員付)に対話集会の目的と今後の展開のポイントを聞いてみた。

━まず初めに、日本レスポンシブル・ケア協議会(JRCC)が積極的に取り組んでいる「対話集会」とは一体どんなものなのかをご紹介いただきたい。

最初に、対話集会を推進しているJRCCについて簡単に説明させていただくと、JRCCは、レスポンシブル・ケア活動、すなわち環境の保護と保安防災および製品の衛生・安全性の確保に自主的に取り組んでいる化学企業によって1995年に設立された任意団体で、現在の会員数はおよそ110社を数える。会員各社の意識は非常に高く、実行すべき課題はどんどん自主的に実行に移しており、その実績については多くの関係省庁や関係業界の皆さんから高い評価をいただいている。
 しかしそうした実態は一般市民の皆さんにはほとんど知られておらず、このため消費者団体や地域社会の方々の中には、化学工業や化学製品に対して依然として強い不安感をお持ちの方が少なくないのが実情だ。そこでJRCCでは、これまで私達があまり接点を持たないできた一般社会の多くの人々、つまり工場周辺の住民の皆さんや消費者の方々にも広く実態をご紹介申し上げて理解を深めてもらうとともに、皆さんのご意見にもじっくり耳を傾けるようにすることが自らの自主管理活動をより充実したものにするうえでも必要不可欠と考え、対話集会の開催を計画した。
 最初は、石油化学コンビナートが立地する各地の地方自治体の皆さんや地域住民の方々との会合からスタートした。「地域説明会」と名づけて鹿島地区で最初の会合を開いたのが96年5月であった。
 その後、訪問先を千葉、川崎、四日市、泉北、水島、岩国、徳山、大分の各地域に広げ、97年11月までに合計九つの地域で対話集会を開催して当初の予定の第一巡を終了した。この間の参加者は延べ1,020人となった。幸い、その中の多くの方々が、化学のことが多少分かるようになったとおっしゃり、そして、こういった集会を今後もぜひ続けてほしいと声をかけて下さる方も非常に多かった。
 そこで99年1月から2順目をスタートさせ、昨年11月までに、前回実施した9カ所に加えて富山と高岡地区でも集会を開いた。2順目の会合には自治会や学校の先生方も出席して下さり、質疑応答と意見交換が一段と活発になった。徳山では初のポスターセッションも実施した。

━実際の話し合いはどんなかたちで進められてきたのですか。

 最初に私達が、操業の安全確保、リサイクルを含めた環境の保護と製品の安全確保に関してこれまで化学業界がどんな対策を講じてきてその結果どんな成果が得られたかを数字を使って説明し、そして市民の皆さんから質問していただいて詳しくお答えするというかたちを取ってきた。この中では、化学物質が有用性と合わせて何らかの有害性も持っていることも率直にお話するようにしてきた。さらに、化学業界がこれから実現していこうと考えている環境・安全対策の内容をお話し、そしてそれに対するご意見をどんどんお出しいただくようにしてきた。

━そうした一方では消費者団体との対話集会も何度か開催してきたのでしたね。

 消費者の皆さんはわれわれ化学業界に取って重要な最終ユーザーであるだけにやはり対話が不可欠と考え、98年11月に講演会にパネルディスカッションを加える形式で第1回の会合を開いた。さいわい、参加者はほぼ会場いっぱいのおよそ280人に達し、大変に盛況であった。で、このとき、講師の一人を引き受けて下さった全国消費者団体連絡会の日和佐信子事務局長が、「次ぎからは、壇上と一般席とでやりとりするのではなく、化学業界の方と市民とが同じテーブルでいろいろディスカッションするようにしたらどうか」と提案して下さったので、2回目以降はわれわれと消費者の方々が交互に肩を並べてテーブルに着き、ざっくばらんに意見を述べ合うというかたちに改めている。99年4月、99年12月、そして昨年11月と計3回、この形式で対話を実施している。

━岩本さんは全ての会合に顔を出されたようですが、会合を重ねていく中で最も強く感じたのはどんな点ですか。

 一般社会に情報をきちんと発信することがいかに大切であるかを改めて考えさせられた。多くの人々が企業に最も強く求めているのは、透明性であり、とりわけ環境・安全問題に関してはその思いが強い。それを無視していくと命取りになりかねないことが実際にいろんな人々からお話を聞いていく中ではっきり実感できた。

━市民運動家の中には、化学に対して強い偏見を持っていてディスカッションにならないケースもあるのではないですか。

 時にはそんな事態に陥ることも有り得ると心配していたけれど、杞憂に終わった。こちらが丁寧に分かりやすく説明すれば、ほとんどの人々は真正面から対応して下さる。むろんそれは、化学業界がやるべきことをきちんとやっていることを明確に説明できてはじめて可能なことだ。つまり、業界全体が所期の成果をしっかり上げていることが前提と言える。さいわい、化学各社は環境・安全問題に関してもいろんな分野で着実に成果を上げてきている。けれど、そうした事実はほとんど一般社会には知られていない。一般市民の間に化学に対するマイナスイメージが強いのは、そうした点にわれわれ自身があまり意を用いなかったからとも言える。

━つまりは、一般社会とのコミュニケーションが不足していたということでしょうね。そうした中でJRCCが実際に対話集会やってみたら存外うまくいったということですか。

 やはり対面して話し合うのが一番ということだ。化学各社の製造現場の皆さんも腰を引くことなく真剣に対応して下さった。だから、市民・住民の方々の多くも、率直な対応が好感できるとおっしゃって話に熱心に耳を傾けて下さるようになった。収穫は大きいと言ってよいと思う。

━逆に反省点はありませんか。

 いくつかある。例えば、地域によっては、積極的に参加した市民から意見を引き出そうとする努力が不足しているところもある。これでは目的を十分に果たせないので、そういったところに対しては工夫が必要だ。呼び水としてパネルディスカッションを先にやることなども考えてよいかも知れない。
 それともう一つは、説明がややもすると独りよがりの専門的なものになりがちな点も反省しなければならない。化学用語の中には一般市民が初めて耳にするものが多い。また、英語の頭文字を組み合わせた難解な固有名詞も少なくない。このため市民の中には、化学業界の人の話は分かりにくく、また資料を見てもなかなか理解できないとおっしゃる人が多い。この辺はよく考えてもっと分かりやすい説明の仕方、情報発信の仕方に改めていく必要がある。

━今後の活動についてはJRCCではどう考えていますか。

 基本的な課題はやはり対話集会の場をもっと広げていくことにある。繰り返しになるが、世の中の多くの人は化学に関する情報不足が響いて化学に対して漠然とした不安感を抱きながら生活している。したがって、本来無視してよいようなほんのちょっとした出来事でも過剰反応と化学に対する拒否反応が生じることになりがちだ。それだけに、化学業界自らが対話の場を広げ、正確な情報を間断なく発信して少しでも多くの人に正しい知識を持ってもらうようにしていかなければならない。
どうしても化学は受け入れたくないというグループもいるが、それはほんの一握りにすぎない。多くの人々は、こちらの対応次第で化学を十分理解して下さると言ってよい。ついては、先にも述べたように、化学の有用性を強調するだけでなく化学物質があるていどの有害性を持っていることも率直にお話ししていくことが大切だ。むろん、その有害性が現実の人の健康に影響を及ぼすレベルのものかどうかといったことや、有害性を低減するために化学業界が何をしようとしているかといった点なども詳しく説明していく必要がある。こうした丁寧でかつ率直な姿勢による情報の提供こそが、多くの市民が求める透明性の確保ということなのではなかろうか。
 今後も、多くの化学企業の方々と一体となり、誇りと自信を持ってより多くの市民の皆さんとフランクに対話を重ねていきたい。関係各位のご理解とご支援を切にお願いしたい。

2001.01.11掲載