わが国石油業界の現状と課題

 

資源エネルギー庁長官

河野 博文 氏

H.KAWANO

 石油業界はいま、多くの難題に直面している。国際的にはすでに大競争時代に入っている。国内も相次ぐ規制緩和と、需給構造の変化にどう対応するか、精製・元売り会社同士の系列を超えた合併、提携も進んでいる。
 「いまこそ石油産業は、経営基盤の強化に勤め、国際競争力のある産業になってほしい。私たちもできる限り支援していきたい」と語る、河野長官の言葉にもつい力がこもる。

━まずわが国石油業界の現状から。どう見ていますか。

 業界は非常に厳しい経営環境に直面している。1996年3月末の特石法廃止による石油製品の輸入自由化など、大幅に規制が緩和された結果、競争が激化した。
 収益は著しく悪化しており、精製・元売り29社の1998年度決算では合わせて180億円の経常赤字となっている。これは第2次石油ショック直後の1981年度以来、17年ぶりのことだ。

 石油製品の販売業界はどうかというとこれも厳しい。94年度をピークに給油所数が減少をみせはじめ、98年度には全国5万8,000軒あった給油所のうち2,300か所が閉鎖された。

━各社は合理化など対応を急いでいます。

 各社それぞれにコスト削減、合理化に取り組んでいる。会社ごとの取り組みだけではない。99年4月の日石と三菱石油の合併、10月にはその日石三菱とコスモ石油の業務提携、昭和シェルとジャパンエナジーの事業共同化に向けた提携など既存企業の枠を組み越えた動きも活発化している。石油製品販売の間でもコスト削減、サービスの充実、経営多角化などの構造改善に努力していると承知している。
 通産省としてもこうした取り組みに対して、産業再生法や予算の活用による支援を用意しているところだ。こうした支援策を活用しながら各社の構造改善努力が進み、国際的にも遜色のない強靭な石油産業が形成されることを期待している。

━国内需要は少し上向いてきたようですね。

 そう。1998年10月に策定された99年度下期の需要見通しではマイナス0.4%の伸びとみていたが、その後ナフサの需要が回復し、アジアへの輸出が増えたこと、さらに揮発油、灯油も順調だったこと、などから1.1%上方修正し、前年度比プラス0.4%の伸びと見込んでいる。
 今後日本経済の回復とともに石油需要も順調に回復していくと思う。

━石油は国際的にも市況の変化が激しく、メジャーの戦略も企業買収、提携と展開が活発です。日本としてはどう対応すればいいですか。

 97年11月のOPEC原油生産枠拡大やアジア経済の混乱などによって、原油価格は大幅下落した。98年末から99年初にかけて1バーレル10ドルを割る水準まで下がった。これがメジャーの売上高、利益に影響を与えた。
 メジャー各社は従来から下流部門を中心に人員削減や製油所、SS(サービスステーション)の閉鎖、売却等によるコスト削減を進めていたが、その後は上流部門でも競争力強化のため積極的に戦略を展開しはじめている。
さらに、企業単独でのリストラ以上の合理化、競争力強化のため、99年の暮れに合併により誕生したエクソン・モービルをはじめ、BPとアモコ、トタールとペトロフィナ、BPアモコとアルコ、トタールとエルフなど大型再編が相次いでいる。
 一方、わが国も石油製品の輸入自由化によって国際市場とのリンケージがより強まってきているため、国際的に遜色のないコスト構造、サービス水準を持った石油産業を形成していかないといけない。
 今、激しい競争にさらされ、各社懸命に合理化に取組んでおられるが、こうした努力が我が国石油産業の基盤強化、体質強化につながり、国際競争力をもった強靭な石油産業が形成されることを期待している。

━今、石油業界に一番強く要望されることは何ですか。

 今、わが国にとって一番大事なのは産業の高コスト構造を是正し、わが国全体の経済活動を活力あるものにしていくということだ。そのためにも規制緩和は今後も避けて通ることのできない課題だ。98年6月には石油審議会基本政策小委員会で石油業法の需給調整規制廃止が提言されており、私たちはこれらを踏まえて2001年をめどに制度改革を実施することになっている。
 他方、エネルギー供給構造も天然ガスの導入や燃料電池の開発など、技術が進むにつれ大きく変わろうとしている。私たちも政策的に支援していく方針だ。
 新しいエネルギー技術の開発研究に、石油業界もぜひプレーヤーとして参画し、パートナーの1人として、役割を果たしてほしい。
 こうした取り組みこそ長期的なエネルギーをめぐる環境の変化に対応できる、強靭なわが国石油産業の形成につながっていくと思う。