ポリスチレンの二次値上げと事業環境

東洋スチレン 社長

松上 孝 氏

 T.MATSUKAMI

 東洋スチレンは今年4月、電気化学工業、新日鉄化学、ダイセル化学工業の3社がポリスチレン(PS)事業を分離、統合して発足したばかり。製造、販売から研究開発まで徹底的に合理化を追求し、国際競争力を確保していくのがねらいだが、松上社長は「合併前に効率の悪い設備は全部捨ててきたから、今持っているプラントは新しいものばかり。製造コストなど、内外他社と比べて競争条件が劣っているとは思えない」と言い切る。いまは原料高の中で1次値上げを終わって、2次値上げ交渉の最中。「なんとかユーザーの理解を得たい」と陣頭指揮に忙しい毎日だ。
—PSの二次値上げを打ち出されました。どうしても必要と。

 PS事業は低付加価値といわれてきた汎用樹脂の中でも特別に採算がよくない。この10年から20年、陥没状態がずっと続いてきた。ここまできたらもう目覚めるしかない。前回の一次値上げのときにも、ユーザーさんの中には、「大変だろう。いつ値上げを言ってくるかと思っていたよ」といってくれた人がいたほどだ。巨額の赤字をかかえていたし、このままではやっていけないことを分っておられたようだ。だが、その一次が終わってもまだ正常な価格体系にはなっていない。そこへまた原料値上げが追い討ちをかけてきた。原料の高騰がいつまで続くのかは分らないが、もしバブル的なものであって、また下がるというのなら、私たちもできるだけがまんしないといけない。人さまに安易にお願いする前に、まず自分たちで徹底的に合理化をやる。究極レベルまでやりつくさないといけない。

 ただ、将来穏便な形に落ち着くであろう原料価格を前提としても、大半はまだ赤が残っている。その分の採算是正としてキロ15円の値上げは、どうしてもお願いしないといけない。これをもって、今後は少々原料高が続いても、安定価格としてやっていけると考えている。

—PS価格を安定状態に保つというのも大変なのでは。

 最終消費されるまでにいろいろな段階がある。まず、シート業界があり、容器をつくる成形加工業があり、さらにその容器に食品などを詰めて売るメーカーがある。材料の値段がアップダウンすれば、そういう人たちが困る。だから私たちは多少原料の値段が変わっても樹脂の価格は安定しているようにしたい。そのためには究極までコストダウンを図ること、それと過去の陥没を是正し、新しい価格体系を確立することの2つが大事だ。その意味でも今度の二次値上げの決意は固いと受けとってほしい。

—原料SMメーカーの中には、SMの三次値上げを打ち出そうとしているところもあります。

 SMメーカーがどう考えておられるのかは各社各様であろうし、よく分らないが、バブル的な利益を求めておられるとしたら市場の反発を買うだろう。海外の市況の動きをみていると、一時は極端なまでに値段が下がっていた。その反動がいま、バブル的に出ているのだと思う。本来、国際市況というのは“水もの”的なところがある。弾みで乱高下する。経済原則からみれば考えられないことだが、過去の赤字をとり戻そうという心理が働くのだろう。

 PSの場合はさっきも言ったように多くのユーザーさんに迷惑がかかる。いまここで陥没さえ修正させてもらえれば、あとは結構だ、私たち自身がコスト下げの努力をし、原料価格に振り回されないようにやっていくつもりだ。

—需要の方はどうですか。家電,自動車など大手ユーザーの海外への工場シフトが進んでいます。会社の合理化を究極までと言われたが、目標は。

 当社は工場が千葉の五井と君津、それに姫路と3か所にある。プラントは9系列で生産能力は37万トン。合併前に効率の悪い設備は全部廃棄したから、現有プラントはそれぞれ新鋭で効率が高い。9プラントあると、グレードの切り替えも系列ごとにできる。内外の他社と比較しても、当社に劣っている点はほとんどないといっていい。人員も150人体制でやっている。省力化ということでいえば、当社が一番だろう。ただ、まだグレードの種類が多い。これから合理化を追求していくとすれば、まずこの削減が課題になる。あとは物流面の合理化をどうやるかだ。

 グレードは合併直前まで150種類あったが、合併時まず120に減らし、さらにいま半分の60に減らそうと努力中だ。年内には達成したい。究極の目標としては、もう半分の30にまで減らしたい。その30も汎用品でなく、高付加価値の特殊グレードで埋めていく。そうなれば理想的な形になる。競争力は十分出るし、ぎりぎりでも常に黒字経営が維持できるようになる。

 国内出荷は大きくは伸びていないが、まず順調というところだろう。ユーザーさんの海外シフトにしても、何も日本国内の原料価格が高いために海外に出ているわけではない。消費地に近いとか,人件費が安いといったことが主な理由であって、まして、PS価格が高いとは思えない。げんに東南アジア向けなど、いまも輸出は順調だ。

—当面の課題に環境問題があります。

> 環境ホルモンの問題が一部で指摘され、われわれも本当なら大変なことだと心配したが、幸いその後の多くの実験などによって、安全だという結論が出され、いまは安心している。いわれなきというか、過剰な批判や不安をあおるような意見に対しては、しっかりと業界で対応していかないといけない。私たちとしても、なお安全に安全を重ねていく努力はしないといけない。それを社会に向かってアピールしていくことが大事だと思っている。

—原料SM業界にいま一番いいたいことは何ですか。

 SMメーカーというより、もっと上流のエチレン、ベンゼンといったところに、国際競争というものをどう考えているのかとききたい。ナフサの上がり下がりを計算で価格フォーミュラーに当てはめるだけで、いくら上がったからいくらと値段を決めようとするが、国際価格に対抗する努力が不明確である。だから日本の原料価格は国際的に見て高い。実際に海外マーケットで競争して売っているのはわれわれ誘導品メーカーであり、その先の加工メーカーであるのだということを分かってほしい。国際価格で供給できないなら、もっと知恵を絞れ、努力してくれといいたい。原料基盤が弱いと、私たちは長期的にみて国際競争に対抗できない。