スチレン業界の課題とあり方

 

日本スチレン工業会会長

東洋スチレン 社長

松上 孝 氏

 T.MATSUKAMI

 「スチレン業界は危機的な状況の中で各社アライアンスに取り組み、事業体制が様変わりした」と、松上さん。新しい時代に合った業界活動を展開していかなければ、といったところのようだ。
 4月末に日本スチレン工業会の会長に選任されたばかりだが、抱負は明確。電気化学工業(専務)時代からスチレン事業部門をみてきただけに、揺るぎないものが感じられる。
━工業会会長を引き受けて、いまどんな感想を。

 PS業界は、危機的な状況が続く中で、急激なアライアンスをやってきた。このため、事業形態が大きく様変わりした。しかし、そうした中で早く正常な産業の姿に戻そうという共通認識のようなものも生れつつある。前会長の煤孫さんのご尽力のおかげだが、何とかこの路線を継いで、さらに強化する方向でやっていきたいと思っているところだ。

━具体的には、どんな点を強化していくのですか。

 1つには、産業として健全で、国際レベルの規模、競争力を保ち、ユーザーや関連業界に対しては、役割や責任を果たしていく。それによって、消費者の皆さんには安心してご使用いただく。私たちも経営内容を健全化し、再生産可能な事業として運営していく。これがまず一番大事だ。2つ目はやはり環境、安全衛生、それにリサイクル問題だ。
 これには工業会として最善を尽くし努力していく。一時はエンドクリン問題からスチレン系製品は有害ではないかと疑問をもたれたことがあったが、その後、各国の試験機関でいろいろな実験を行った結果、問題ないという結論が出た。
 私たちも、科学的に安全が認められた以上、安心してお使いいただくよう、もっとPRしないといけない。
 もちろん、私たち自身これからも念には念を入れ、調査や研究はやっていかないといけない。世界中の人から評価され“愛されるプラスチック”になるようベストを尽くしていきたい。

━日本だけでなく、国際的にも安全が認められたという点は大事ですね。

 そう思う。だから3つ目のテーマとして、グローバル時代に対応して、原料、製造技術、品質・特殊品の開発、物流、需要分野等々、あらゆる角度から世界の状況を調査把握し、日本におけるPS産業の国際的な位置付けと課題を明確にしていきたい。もともとPSというのは国際商品だし、コストダウンの追求や環境とか安全に対する調査は各国で行われている。日本もそれらの情報を集め国際情勢から遅れないようにしていきたい。それと4番目は工業会活動の透明性だ。

━工業会活動の透明性とはどういうことですか。

 どの業界団体も同じだが、とかくこういう組織は法的にも透明性を保っていないと、誤解されやすい。会議の記録はもちろん、開催の目的をいつも明確にし、いやしくも誤解を招かないようにする。何もこれは目新しいことではなく、これまでもやってきたことだが、私としてはやはり大事な点だなと思っている。

━ところで内外PS業界の現状をどうみていますか。

 国内需要の方はまあまあというところではないか。長らく需要は100万トンといわれ、これ以上の伸びは期待できないとみられてきたが、ここへきてやや落着いてきた。今年は1〜2%の伸びも期待できそうだ。
 国際的にはもちろん成長商品だ。樹脂そのものの物性からいっても透明で加工性がよく、衝撃性など強度にもすぐれている。しかも衛生的で使いやすい。これからもいろいろな分野で使われていくと思う。需要が伸びていくことは間違いない。

━国際競争は激しくなっていきそうですね。

 海外に大型プラントが建っているし、競争はさらに激しくなるだろう。しかし、日本国内で売られているPS樹脂は国際市況に比べても安いから、輸入品がどんどん入ってくる状況にはないと思う。国際市況といっても香港やシンガポールで売られているのは、港本船渡しの価格だから、日本へ持ち込みユーザーへ届けるとなるとその分のコストが上積みされる。だからといって、われわれもこのままでいいと思っているわけではない。それぞれに一段と厳しいコスト下げの努力をし、国際市況が下がったときでも耐えられるよう経営基盤を強化していかないといけない。
 ことに日本はナフサ、エチレンなど原料価格が割高になっており、この分をコストで吸収するのは大変だ。私は、日本がもっている技術力を生かして、高付加価値製品を開発していくやり方は正しいと思う。しかし、それで汎用品の赤字を埋めるのではなく、汎用品は汎用品で採算がとれるようにし、高付加価値製品で利益を生み出す。そして、再生産可能な事業として運営していくようにしないといけないと思っている。

━東洋スチレンはそのような方針で経営していると。

 当社は発足以来、徹底してコストダウンに努めてきた。2年間で40億円という目標は2倍近い達成が見込めるところまできていた。その後原料の値上がりもあって、若干修正せざるを得ないものの、今年も少なくとも20億円分の合理化をやりたい。製造部門を中心に生産性を高め、物流やロット、倉庫料を組み合わせて“複合的コストダウン”を図る。生産性でいえば、グレード種類も一時の130から現在80グレードまで減ったが、さらに圧縮して50まで削減する。そのぐらいやらないと、国際レベルのPSメーカーになれない。ユーザーの皆さんの信頼にも応えられないと思っている。