当面の行政施策と化学業界への要望

厚生省生活衛生局長

西本 至 氏

 I.NISHIMOTO

 厚生省の最近における環境・衛生安全施策の活発な展開が世間の注目を集めている。廃棄物の増大、エンドクリン(環境ホルモン)問題のクローズアップ、さらにはダイオキシン問題の広がり‐‐等々、次々と顕在化してきた社会問題に的確に対応している点が識者に評価されている。ただし、同省による環境・安全行政も2001年1月の省庁再編によって新組織に移行することになる。このため、残る1年少しの間に同省が現在の施策をどう仕上げていくかに関係者の関心が集まっている。そこで、同省生活衛生局の西本至局長(今年8月就任)に当面の行政課題についてきいてみた。

—西本局長が環境・衛生安全行政に携わるのは、昭和58年2月から9月まで環境衛生局企画課長補佐を務めて以来16年振りと聞いています。当然のことながら、現在の行政ニーズは当時と大きく異なるものとなっているはずですが、局長はどのように受け止めていますか。

 以前と比較した場合の最も大きな違いは、エンドクリン問題やダイオキシン問題、さらには遺伝子組替え食品問題などのように科学的に未解明な部分を多数内包した新たな環境・衛生安全問題が大きくクローズアップされてきた点だ。これらの問題に対して消費者が強い懸念をお持ちになる点は十分理解できる。それに、環境・衛生安全問題に対しては、何かやっかいな問題を引き起こすかも知れないとの前提に立って対策を考えていくのが行政の務めでもある。といって、科学的な検討を加えることなく安易に製造や販売を規制する道も取るべきでない。行政当局としてはやはり慎重に行動することになる。

—すると、化学物質のエンドクリン問題について白か黒かの結論が出るまでに、なおかなりの時間がかかることになりますか。

 物質によってはある程度時間がかかることになると思う。スチレンのダイマーやトリマーの場合は多くの試験・実験が行われてきた結果問題がないとの評価が国際的に下されるようになってきているが、その一方でははっきりしないものも少なからず存在している。したがって、全ての化学物質について結論が出るまでにはかなり時間が必要となろう。しかしわれわれとしては、ことがらの性質上、極力丁寧に取り組んでいくほかない。そのへんは、消費者の方々も化学業界のみなさんもどうかよくご理解いただきたい。
 ダイオキシンと塩ビの関わりについても、いろんな条件を設定して実験してからでないとはっきりしたことは言うべきでないと思う。

—しかし、1年少し後には省庁再編が予定されています。このままいくとすべての問題を先送りすることになりませんか。

 そうならないようにするのが現在この仕事に携わっている私達の最重要使命と考えている。私達の手で解決できることはむろん遅滞なく片付けていく。一方、どうしても新しい組織に委ねざるを得ないケースについても、担当者がスムースに問題を解決できるようにネックの解消に努めるなどで環境条件の整備を進めていきたい。

—衛生・安全性の確保と並ぶ当面の重要政策課題はリサイクルの推進と言えます。来年4月1日からは「容器包装リサイクル法」が本格施行となります。準備は順調に進んでいますか。

 来春からは、いわゆる”その他プラスチック”と紙製の容器包装が法律の対象となるわけで、これがスムースにいくかどうかで同法の成否が大きく左右されると言って過言でない。幸い自治体の分別収集の準備はどうやら順調に運んでいるようだ。あとは、排出サイドと再商品化に関わる方々の知恵と努力に期待する。
 しかし、ごみ問題の最大のネックはやはり廃棄物の排出の絶対量が多いことにある。容器包装リサイクル法の施行などで処理体制はかなり充実したものとなる。したがってこれからは、排出する側の人々が排出量の削減にどう取り組むかが大きなポイントとなる。産業界の皆さんには減量化のために大いに知恵を絞っていただきたい。そうでないと、ごみ問題の根本的な解決はいつまでたっても実現しない。プラスチック製品の場合も、本当にそれを世間が必要としているかどうかをもう一度見直すことが求められよう。過剰包装のさらなる自粛も課題の一つと言える。つまりは、循環型経済社会の構築に産業界全体で本腰を入れて取り組んでいくことが望まれるわけで、化学業界の皆さんの行動にも私達は大きな期待を寄せている。
 一方私達自身の最重要課題は、さきほども触れたように2001年早々の省庁再編に際してベストのかたちで新組織にバトンを渡すことにある。ついては、関連する法律の不備なところを改めることも含めて木目細かく現状をチェックして整備すべき点をきちんと整備していきたい。