得意とする事業をグローバルな視点で拡充

 

大日本インキ化学工業 社長


奥村 晃三 氏

K.OKUMURA

 東京株式市場第一部に上場している化学企業の間で、退職給付会計の導入によって2000年3月期に大幅な特別損失を計上する旨を表明するところが相次いで出始めた。大日本インキ化学工業もその一つだ。厚生年金基金過去勤務費用の大半を一括償却することにしたためで、これによって本体の最終損益は126億円の赤字となりそう。ただし、実際の業績や実力を表す営業利益や経常利益はいずれも当初の目標をかなり上回る見通しにある。コアビジネスの拡充策と、不採算分野からの撤退や分社化等による経営合理化策の展開がともに着実に実を結びつつあるのが大きいと言ってよいようだ。そこで、同社奥村晃三社長に一連の体質強化策の進捗状況と今後の経営戦略のポイントを聞いてみた。

━2000年3月期の業績のうち、営業利益と経常利益は前年実績をかなり上回ったようですが、その要因はどういった点にあると言えますか。

 長期化した不況の中で、得意とするビジネスの選択的拡充や様々な構造改革に社員1人ひとりが大変な努力をつみ重ねてきたことが大きい。その成果は着実に業績の改善となって表れてきている。しかしあいにく、年度下期に入って主要原料の価格が大幅に引き上げられたため、そうした成果が少なからず相殺された。この点は残念と言わざるを得ない。

━原料高の中でもなお順調な伸びを遂げて今年3月期の社全体の業績向上に寄与したものとしては何が挙げられますか。

 住宅・土木分野の回復によって不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタンなどのポリマーが期待通りの伸びを示した。またエポキシ樹脂も、エレクトロニクス分野を中心に大幅に回復した。いずれも当社がかねてから育成・強化に力を入れてきた製品だ。さらに言えば、絶対量こそまだ小さいもののやはり当社が得意とするポリマーの一つであるポリスチレンの透明ハイ・インパクトグレードも食品包装分野を中心に好調だ。
 一方、主力製品の印刷インキでは、平版インキが需要こそ拡大したものの、業界全体の過当競争が響いて収支バランスは期待に反するかたちとなっている。しかし、新たに手がけたVOC1%以下の大豆油インキの立ち上がりは極めてスムースだ。

━他方、この1〜2年でかなり思いきった構造改革も断行してきたようですが、その成果のほどはいかがですか。

 最も大きな効果が得られつつあるのは、やはり不採算部門からの撤退だと言える。EPS事業の積水化成品工業への譲渡、OA機器用成形品やOPCドラムの事業の打ち切り、診断薬ビジネスの売却などが代表例として挙げられる。出光石油化学との間のPSの生産提携など他社とのアライアンスも大きな成果を上げている。1月にスタートした昭和高分子とのSMCの業務提携や、つい先日話し合いをまとめたバイエルとの日本における熱可塑性ポリウレタンの事業統合なども当社の今後の体質強化に大きく寄与すると見てよい。
 また、物流部門やエンジニアリング部門などの分社化も業績改善に少なからず寄与している。加えて、自動車バンパーや産業用ヘルメットなどのプラスチック加工製品も最近分社化した。これは、より機動的かつ効率的なビジネスの展開を狙ってのもので、これも遠からず成果が上がってくると期待している。

━生産面の合理化にも積極的に取り組んでいるようですが。

 現在は、生産体制を極力集約化することに重点を置いてコストの合理化を追求しているところだ。例えば、印刷インキに関しては、群馬をマザープラント化しベースインキの生産を集約してコストの縮小を図っている。樹脂についても、地域毎に生産をできるだけ集約して生産の効率向上に取り組んでいる。もっとも、こうした生産面の改革の仕上がり状況は7割方にすぎない。

━人員の削減はどのていど進んだのですか。

 おおむね予定通りにいっている。定年退職者の補充の見送りなどで約570人減らして合計約5,900人体制に改めている。分社化に伴う削減を含めれば縮小率はさらに高いものとなる。

━そうした一連の構造改革は今後もなお継続していくことになるようですが、その場合、どんな点に大きなポイントを置いていく考えですか。

 重要課題の一つはやはりコア製品の生産の集約化だ。先ほど申し上げたように、この面での全体の進捗状況はまだ70%程度なので、残りの30%を早急にクリアしたい。
 差し当たり、尼崎工場の合成樹脂やエンジニアリングプラスチックの生産を堺工場や小牧工場などに集中させることにしている。2000年度中には実現し、尼崎工場はその後売却する計画だ。また、蕨工場で生産している応用顔料や粘着製品も、別の工場で集中生産するようにして生産効率を大幅に高めたいと考えている。その場合は、設備をより効率の高いタイプに改良することも合わせて実行することになろう。2001年度には実現したい。
 こうした措置の基本的な狙いは、当社が得意とする事業や製品の国際競争力をさらに強めていくことにある。したがって遅滞は許されないし、アイテムもなお追加していかねばならない。

━そう言えば、今後も成長が期待でき、なおかつ拡充を図りたいとお考えの事業としてはどんなものが挙げられますか。

 高機能樹脂や、情報・記録材料、エレクトロニクス関連材料などが挙げられる。広い意味でのファイン・スペシャリティー製品と言える。また、当然のことながら環境対応製品も大きく育てていきたい。さいわいこれらの製品は、顔料や接着剤、さらには樹脂など当社特有の機能性材料や関連技術をフルに活用することで大きく拡充していける素地を有している。こうした強みはぜひ十分に生かしていきたい。

━仏・トタルフィナ社のインキ部門「コーツ」を買収しましたが、これはどういった意味を持つのでしょうか。

 このM&Aは、単にインキの世界シェアの拡大を目指すにとどまらず、インキの原料である顔料や樹脂などを手がけているグループ全体の事業の拡充も目的に実行に踏み切ったものだ。また、買収によって当社のネットワークは一段とグローバルな広がりを持つことになるので、この強みをフルに生かせば、需要家の皆さんのグローバル戦略の展開にも、製品の安定供給や情報の収集などを通してこれまで以上に貢献していけることになるはずだ。またぜひそのように持っていきたいと考えている。

━これまでお話の内容を整理して、社長が目指す御社の姿を簡単に表現するとどうなりますか。

 基本は得意とする技術や製品を選択的に伸ばしていくこと、そして事業の展開に当たってはあくまでもグローバルな視点に立って拡充を目指していくということに尽きる。