| 2004年06月24日 |
| 塩ビ業界が取り組んでいるフィードストック・リサイクル(FR)=ケミカル・リサイクル(CR) |
(1)はじめに <塩ビ業界が取り組んでいるマテリアル・リサイクル(MR)>で述べたように、塩ビ業界のリサイクル活動の歴史は30年の長きにおよぶ。また、03年におけるリサイクル率(総排出量に占める総リサイクル量の比率=有効利用率)も、サーマルリサイクルを含めると38.5%に達したと見られている。 最近は、塩ビに対するかつてのような観念的かつ非科学的な激しい拒否反応や忌避運動が次第に姿をひそめつつある。これには、こうした長年にわたる塩ビ関係業界全体の懸命なリサイクル活動の展開によって塩ビ製品を見つめ直し、塩ビ製品の持つ物性面や経済面の特性・利点を率直に評価する市場関係者が再び増えはじめたことが大きく寄与していると言って過言でない。 現在も、塩ビ工業・環境協会(VEC)と塩化ビニル環境対策協議会(JPEC)は、現状に満足することなくリサイクル比率を少しでも引き上げるため引き続き新たなリサイクル技術の開発とリサイクル製品の用途開拓に多くのエネルギーを投入しているところだ。 しかし実際には、マテリアル・リサイクル(MR)手法だけでリサイクル率をさらに大きく引き上げるのは困難と言わざるを得ない。塩ビ製品の用途の中心がパイプや農業フィルムに代表される土木・建築分野や農業資材分野で占められていて、そうしたものの使用済み製品の中には土砂や異物が付着していて簡単にMRに回せないものが多いからだ。 塩ビ業界ではこうした点を考慮して、今後はフィードストック・リサイクル(ケミカル・リサイクル)手法の技術開発とその普及にこれまで以上の精力を傾注していく方針を固め、具体的な行動を起こしつつある。 この点について、VECの資源環境委員会の日野清司委員長(大洋塩ビ社長)は「全体のリサイクル率のさらなる向上には、MRの一層の拡大に加えて、汚れがひどくてMRに不適な廃棄物をフィードストック・リサイクル(FR)によって合理的に再利用していくための新たな施策の展開がどうしても必要」と力説する。 そして、「さいわい、それに必要な技術開発は関係各方面のご協力とご支援で順調に進んでいる。そうした新たなFR手法の本格的な活用によって、5年後の08年にはトータルのリサイクル率が50%になるように持っていきたい」と付け加える。その第一歩はいま大きく踏み出されようとしている。以下はその概要と展望である。 (2)フィードストック・リサイクル(ケミカル・リサイクル)への取組みの現状と展望 図1: JFEスチール ロータリーキルン 図2: JFEスチール 塩酸回収設備 現在、VECとJPECが関係企業や政府等の協力を得て技術開発と実用化を促進しつつあるFR手法は、[高炉原料化手法]と[溶融ガス化手法]の二つに大別できる。 そのうちの[高炉原料化手法]については二つの異なる企業との共同作業によって技術の仕上げに取り組んでいて、間もなく実用化の段階を迎えようとしている。提携のパートナーの一つはJFEスチールであり、もう1社は神戸製鋼所だ。また、「ガス化溶融法」では住友金属工業が提携先となっている。それぞれのプロセスの概要と技術開発の進捗状況を記すと以下のようになる。 [1]JFEスチールとの提携による【使用済み塩ビ製品の高炉原料化手法の開発】 【プロセスの概要】 使用済み塩ビをロータリーキルンで熱分解することで炭化水素と塩化水素に分離し、炭化水素は鉄鉱石の還元剤として、一方の塩素は塩酸としてそれぞれ有効利用していくというもの。 【プロセス開発の経緯とこれまでの歩み】 JFEスチール(旧NKK)が高炉の還元剤として長年使用してきたコークス(鉄を作る際に鉄鉱石から酸素を取り除く役割を持つもの)の一部を廃プラスチックに置き換える方針を固めて実行に踏み切ったのが同プロセスの開発の発端。JFEは、“環境・リサイクル事業を組み込んだ都市型製鉄所の実現”を基本コンセプトに、96年に神奈川県川崎市の水江地区に廃プラスチックを年間5万トン処理する設備(高炉原料化設備)を設置して稼動を開始した。 しかし、塩ビが混入すると配管など高炉回りの鉄部分が腐食する恐れがあるので、予め塩ビ廃棄物を前処理するとともに有効利用もできるプロセスの確立が必要と判断し、対応策の検討に入っていた。 VECとJPECはそうした折にプラスチック処理促進協会(プラ協)を通してJFEとコンタクト、その結果共同で専用新プロセスを開発していくことで合意し、共同研究を開始した。99年1月のことであった。 その後の2年強は、年間処理能力5,000トン設備を川崎・水江地区に建設してNEDO助成のパイロット研究。そして01年4月〜02年6月の1年強は、塩ビ管、農業用ビニルフィルム、雨どい、床材などを使っての業界(JFE、プラ協、VEC、JPECが参加)の自主研究。さらにその後の2年弱は、本格事業化に向けての実用化技術の研究が進められてきた。 この期間では、市場から集められた様々な塩ビ廃棄物を使っての連続運転時の操業特性や品質管理および設備面の課題などがチェックされた。開発に要した資金は25億円で、うち10億円はNEDO技術開発機構からの助成金で賄われてきた。残りはVECとJPECで負担した。 【開発されたプロセスの主な特徴】 (1)分離された塩素は塩酸として回収されて事業所内で有効利用され、また脱塩素物の炭化水素は鉄鉱石還元剤として高炉で利用されるので、100%のリサイクルが図られること (2)環境に十分配慮したプロセスで、有害物質の排出など環境への悪影響がまったくないこと (3)塩ビの大量処理が可能な設計になっていること (4)他の素材との複合塩ビや劣化や汚れが激しい使用済み塩ビでもリサイクルが可能なこと、の4点が主な特徴とされる。 【VEC/JPECがプロセス開発で担当してきた役割】 多くの技術陣を派遣しての脱塩化水素→塩酸吸収・精製(塩酸化)の基礎技術の研究開発と、様々な塩ビ廃棄物を使っての実用化技術の確立。 【これからの同プロセスの活用】 04年5月からJFEがこの設備を営業運転していく計画。これによって、塩ビを含むプラスチック廃棄物の全てが円滑に処理されていくことになる。塩ビ廃棄物の処理能力は年間5,000トン。当面の目標は3,000トン。 回収した塩酸(3,000トン)は、全量をJFEが同製鉄所内で鉄板の表面処理(酸洗い)に利用していく。これまで外部から購入していた塩酸の大部分を自給することになる。これも世界で初のケース。 [2]神戸製鋼所との提携による【分別収集塩ビの再資源化技術の開発】 【プロセスの概要】 容器包装リサイクル法に基づいて市町村が分別収集したプラスチック製容器包装のうちの塩ビ製品から吸着分離法で塩酸を回収して精製し、その塩酸を製鉄所内の酸洗ラインに利用していくためのもの。 【プロセス開発の経緯とこれまでの歩み】 提携のパートナーである神戸製鋼所も、JFEと同様に、廃プラスチックを高炉還元剤として利用していくことを計画、自治体が容器包装リサイクル法に沿って収集したプラスチック製容器包装をかねてから加古川製鉄所内で再資源化しているところ。ただし、施設の腐食を防ぐため比重分離法によって対象製品を塩素成分が低く比重が1.0を下回るものに限定しているので、利用率は60%ていどにとどまってきた。 そこで同社ではこの比率を大幅に引き上げることにしてこの4月に同所内に廃プラスチック中の塩素成分を効率よく除去する設備を設置した。この装置は、2軸押出し機によって脱塩化水素処理を行うもので、VECと日本製鋼所が共同開発した技術がベースとなっている。 VECがこれから神戸製鋼所と共同で確立しようとしているのは、この装置を使って塩化水素から塩酸を吸収・精製するための技術と、その塩酸の所内の酸洗ラインへの適用性の評価方法。 狙い通りの高効率の技術が確立されると、分別収集プラスチック製容器包装の全てが高炉還元剤として利用されると同時に塩ビの再資源化も図られるだけにJFEのプロジェクト同様に大きな意味を持つと言える。 【当面の展望】 神戸製鋼所が脱塩化水素装置のフル稼動に入るのは5〜6月からとなりそう。それによって、夏場以降の同社の廃プラスチックのリサイクル率は、これまでの60%から一気に90%程度に引き上げられることになると予想されている。加えて、塩酸の有効利用が始まるのは来年度からとなる見通し。 予定通りにことが運ぶと、JFEの川崎地区と合わせて東西の2拠点で塩ビの本格的なFRがスタートすることになる。VEC加盟企業の技術陣の懸命な努力がいよいよ具体的なかたちとなって実を結ぶときがきたと言えそう。 [3]住友金属工業との提携による【塩ビ製品のガス化溶融技術の開発】 図3:住友金属 【開発の目的とプロセスの概要】 住友金属工業の「住友金属方式ガス化溶融システム」に改良の手を加えて一般廃棄物のみならず塩ビ廃棄物も円滑にガス化・再利用できるようにするのが目的。01年度からVECと住友金属工業が環境省の助成や東京都の協力等も得ながら共同で技術開発を進めてきており、現在は最終段階を迎えている。 塩ビ管、雨どい、農業用ビニルフィルムなど各種塩ビ廃棄物をガス化溶融炉内で高温で熱分解してクリーンな高カロリーガスとして回収すると同時に、排ガス中の塩素を塩酸回収装置で塩酸として回収し、さらに塩酸から塩化水素も回収するというのがプロセスの概要。 狙い通りの技術が確立されると、得られた高カロリーガスはガスエンジンやガスタービン等の高効率発電に利用でき、一方の回収塩酸は塩素化して塩ビモノマー原料として再度活用していくことが可能となる。 【技術開発の歩み】 01年に環境事業団の助成を受けて、使用済み塩ビ製品(パイプ、農業用ビニルフィルム、電線)を実験材料に使ってのガス化溶融技術の研究開発をスタート。 02年度は、汚れがひどくてMRが困難な壁紙、雨どい、床材などを対象に溶融と塩酸の回収の試験を実施した。このときは、都営新宿6丁目団地から排出した各種塩ビ建材を用いての東京都住宅局と住友金属工業とVECの3者共同の実験となった。 03年度は、同様の建築廃材と自動車の解体の際に排出する廃材とを使って、ガス化溶融と塩ビモノマー原料化を念頭に置いた回収塩酸の精製の技術の確立に取り組んだ。 重要な課題は、(1)回収する塩酸の不純物を極限まで減らすこと(2)塩酸によるバグフィルターの腐食を防ぐ仕組みを整えること(3)塩酸から100%塩化水素が得られるようにすること、の3点であった。 それまでの研究で必要な技術は確立できていたので、03年度の計画は、実証運転(日量20トン能力)によってその実用性を確認することが主眼であったと言える。 実証試験は、環境省による「平成15年度次世代廃棄物処理技術基盤整備事業補助金」の交付を得てスタートした。 環境省による同補助金交付の決定には、01年度に環境事業団から助成を得て実施したガス化溶融・塩素回収技術の研究開発の成果について、次世代廃棄物処理技術基盤整備事業審査委員会が「合計14のプロジェクトの中で最も高く評価できる内容」との見解を表明したことが重要な伏線となったと見られている。 【実証プラントによる塩ビ廃棄物の処理工程の概要】 各種の塩ビ廃棄物を100ミリメートル角以下に破砕して溶融炉に投入→90%以上の高濃度酸素によって1500℃以上の高温でガス化(所要時間は5分)→塩酸を抜いて200℃以下に急冷(約2分)してダイオキシン類の再合成を徹底的に抑制→生成された高カロリー(1立方メートル当たり1万KJ)ガス(COと水素が主成分)はバグフィルターで除塵・脱塩素処理→発電利用のためさらに湿式脱硫処理する。一方の塩素は、減温塔またはバグフィルターで回収→塩素化→塩ビモノマーの原料にする。 【研究開発の成果と今後の活用】 開発技術の実用性を確認するために03年度に実施された実証試験の結果は、4月下旬現在ではまだ明らかにされていない。しかし関係者の発言からすると、実証試験ではVECと住友金属の双方が期待していた通りの結果が得られたのは間違いないようだ。 住友金属は、ベースとなっている「住友金属方式ガス化溶融システム炉」を佐賀県鳥栖市に生ごみ処理用炉(処理能力は日量66トン)として納入しており、今後は山口県の電炉メーカーの共栄製鋼所にも同100トン炉を、さらに茨城県の医療系廃棄物処理企業の鹿島リサイクル社にも同100トン炉をそれぞれ納入する予定。03年度の実験結果が環境省で認められれば、塩ビ廃棄物が混入した一般廃棄物や産業系廃棄物の処理用に改良炉も売り込んでいくことになりそう。 この場合もJFEや神戸製鋼所との共同研究と同様、VECのFR手法の開発努力はガス化溶融の分野でも遠からず実を結ぶことになろう。 《実証プラントの運転状況を見学した消費科学連合会の犬伏由利子副会長、伊東依久子副会長ら幹部の感想》 「一般家屋やアパート等の建て直しなどで排出される塩ビ管や壁紙のような汚れのひどいものでも簡単に熱分解して発電のエネルギーとして利用したり、あるいは塩ビ原料として活用したりすることができると聞いて感心した。実証プラントもコンパクトで清潔感があり、心配していた匂いもなく、しかもダイオキシンの不安もないとのことなので安心した。今後は、こうした公共性の高いプロセスが地方自治体の間に広く普及していくことを大いに期待したい」。 ![]() |