| 2005年02月07日 |
| 坂本雄三博士(東京大学大学院教授)に“新・住まい学”を聞く |
| 「新たな価値観に基づく家づくりが課題」と力説 |
「京都議定書」の発効がいよいよ目前に迫ってきた。こうしたなかで改めてクローズアップされているのは、いわゆる民生部門におけるCO2排出量の予想以上の拡大だ。中でも軽視できないのは、1990年におけるわが国のCO2の総排出量11億トンのうちの36%を占めたと推定されている建築関連分野の排出量が当初の見通しとは逆に増加の一途をたどっている点である。 注目されるのは、その建築関連で排出されるCO2のおよそ半分が住まいでのエネルギー消費に起因する排出で占められていることだ。このため最近では、学界でも「わが国が京都議定書を遵守していくには、住宅の断熱化が不可欠」と断言する専門家が多くを占めるようになってきた。 そこで、住宅断熱化の重要性をいち早く指摘し、対策の早期実行の必要性を強く訴え続けてきた坂本雄三・東京大学大学院教授に、その趣旨について改めて解説してもらうこととした。坂本教授は「目指すべきは、新たな価値観に基づいた家づくり、快適かつ健康的でしかも省エネ効果も高くて長持ちする家づくり」と強調、そして、「塩ビサッシとLOW-Eガラスの組み合わせによる窓の採用もそうした目的を実現する有力な手段」とも指摘する。以下は坂本教授との一問一答の概要である。 --坂本先生はかねてから、わが国全体が省エネを効率よく実現していくには建築物の断熱化が重要と強く主張してこられています。何がきっかけとなったのですか。 坂本 1978年に旧建設省に入省して建築研究所で住宅の省エネルギーについて研究しているうちに、住宅の断熱化を進めていけばいくほどより大きな省エネ効果を上げられることが判った。しかも人の快適な暮らしと健康の保持にも大きく役立ち、さらに住宅の長寿命化も図れる等々、実に様々な波及効果が得られることも判明した。 そこで、独自に開発した計算法を使って住宅と温度との関係つまり住宅と暖・冷房との様々な係わりを定量的に把握できる新たなシミュレーションプログラムを作成して公表したところ、大きな反響が得られた。それが住宅の断熱化・気密化の問題と深い係わりを持つようになった発端と言える。 そうこうしているうちに、カナダで住宅の高断熱化や高気密化を推進するための国家プロジェクトが実施され、その成果が日本にも紹介された。また日本国内でも、より良質の住宅を求める市民が増えはじめ、それに伴い多くの専門家が住宅の断熱化と気密化について熱心に論議するようになってきた。そして、カナダと日本の専門家の間で定期的に会合が開かれるようにもなった。現在も引き続き年に1回の会合が持たれて活発に討論が行われており、私も毎回参加している。 --その当時から、特に窓の断熱化が重要な課題とお考えでしたか。 坂本 そう判断していた。日本の家屋は、むかしから開口部が大きいために室内の適度な温度の空気が簡単に外に逃げていってしまうということが大きな問題であった。つまり、夏は風通しがよくても冬は寒いという暮らしから長年脱却できないままきていたわけだ。このへんは、早くから樹脂サッシを採用するなどして窓を断熱・気密化して、冬を快適に暮らせるようにしてきた北米や北欧と大きく異なるところだ。 もっとも、日本の場合、樹脂サッシの採用には、以前から防火基準の存在が阻害要因の一つとなってきたと言える面もある。 もう一つのネックとしては、樹脂サッシと複層ガラスの組み合わせによる窓を量産できる体制が整っていなかったことが挙げられる。90年の湾岸危機を契機にわが国でも省エネ基準の見直し機運が高まり、専門の委員会も立ち上げられていろいろ論議された。そのとき私は窓の断熱化を国で推進すべきだと提案したが、断熱窓の供給体制が十分整っていないとして見送られ、残念ながら92年の告示には間に合わなかった。 しかしその後、量産化がはじまり、また市民の間で断熱窓の持つ様々な長所がきちんと評価されるようにもなってきたため最近は普及に加速が付き始めてきている。 --それでも欧米の先進国はもとより韓国や中国に比べても普及率はかなり低いと言わざるを得ません。今後の普及率についてはどう展望されていますか。 坂本 日本全体では、樹脂サッシと複層ガラスの組み合わせによる断熱・気密窓の普及率は確かにまだ低い。けれど北海道では急速に断熱・気密窓が普及して、アルミサッシと単層ガラスの窓はほとんど見られなくなっている。これは、樹脂サッシと複層ガラスの複合窓が持つ優れた断熱・省エネ効果や結露の防止性能、さらには遮音性能など多くの優れた機能を北海道の人々が評価し、住宅における標準品として認めたからにほかならない。現に、結露が防げるようになったことで室内の湿気とダニやカビの発生を抑えることができ、その結果健康で快適な生活をおくれるようになったとのリポートも多い。 こうした長所が広く世の中全体に知られていけば、他の地域でも大きく伸びると見る。また、住宅のほか、マンション、ホテル、老人ホーム、学校等々の大型建造物にも採用される可能性が十分あると判断している。北米や北欧ではその種の建築物に盛んに使用されている。特に最近は、改築・増築の際に窓を断熱・気密タイプに切り替えるケースが増えている。それというのも、北米や北欧ではホームセンターや大型ショッピングセンターの日曜大工コーナーで様々な寸法やタイプの樹脂サッシや複層ガラスなどが豊富に陳列されており、このため一般の市民が手軽に入手して自分で据え付けるパターンが半ば定着しているからだ。日本もこうした点は大いに参考にすべきと考える。 --そのほかにも今後の普及に当たってクリアすべき課題がいくつかあると思いますが。どんな点が挙げられますか。 坂本 私は、これからの住宅は、快適かつ健康的でしかも優れた省エネ効果も発揮して長持ちするタイプのものでなければならないと考える。 そうした新たな価値観を持つ住宅には、断熱化・気密化が不可欠であり、政府も強力にそれを推し進めるべきだと言える。ついては断熱基準の強化と義務化をぜひ実現すべきであると考える。断熱窓の採用者に補助金を出して不公平な助成をするより、義務化してしまう方が公平であるし、多少初期コストが増加してもランニングコストの低下で回収できるし、国民の健康のためには絶対的によいことだと思う。 一方、産業界、中でも樹脂業界にとっての最大の課題はやはり製品コストの合理化であろう。国民全体で京都議定書の取り決めを守っていくには、住宅全体の断熱化・気密化が不可欠なだけにできるだけ多くの国民が省エネに参画できるように樹脂業界が製品コストの引き下げに挑戦していくことは極めて重要といえる。 いま何よりも大切なことは、樹脂業界の経営トップの方々自らが樹脂サッシの普及のもたらす意味の大きさを十分に認識して早期普及に強力なリーダシップを発揮していくことではなかろうか。先ほども述べたように、欧米では早くから樹脂サッシが標準品として広く採用されている。 日本でも同様の道を樹脂業界自らが切り開いていけば膨大な潜在需要を掘り起こせるはずだ。樹脂の新市場開拓のモデルを経営トップ自らが確立する気構えでここは勝負に打って出られることを期待したい。21世紀は環境の時代と言われるだけに、環境保全を通しての社会貢献度のもう一段の引き上げに多くのエネルギーを投入して多大な成果を上げていかれることを祈念する。 ![]() 坂本雄三・東京大学大学院教授 |