| 2006年09月03日 |
| 坂本雄三・東京大学大学院教授に聞く |
| 望まれる関係府省の省エネ政策の一元化 省エネこそ国内の新たな石油資源の確保 |
--現在のわが国における温暖化効果ガスの排出量は政府の狙いとは逆に年々増加する傾向をたどっています。この要因を坂本先生はどのように分析していますか。 坂本 最大の要因は、様々なデータで明らかにされている通り、民生と運輸の両部門における排出量が増え続けている点にあります。周知のように産業界は、厳しい国際生存競争を何としても勝ち抜いていかねばならないということもあって懸命の技術革新で温室効果ガスの排出削減についても一定の成果を上げてきています。しかし、民生と運輸の両部門の増加分までカバーするには至っておらず、このままいくかぎり、わが国が京都議定書の締結で掲げた全体の削減目標のクリアは到底不可能ということになります。 では、民生と運輸の両部門の削減が何故うまくいっていないかですが、これには政府が当初示した削減策が極めて総花的で、確実に効果が上がる現実的かつ的確な手法の提示が遅れたことが大きいと言えます。また、過去の増加の背景について分析が十分なされないできたことも要因の一つではないでしょうか。 ただし、最近は環境省や経済産業省などが民生と運輸の両部門の省エネの重要性を改めて強調し始めました。これは当を得た行動と言ってよく、しかもその中で、民生の省エネの増進には住宅をはじめとした各種建築物の断熱化による省エネが重要と指摘している点は特に高く評価できるところです。 --わが国では、住宅など建築物の断熱化といえば、太陽光発電設備や高効率給湯器の設置、あるいは屋上緑化などを真っ先に思い浮かべる人が多いと思います。けれど坂本先生は、建物の最大の開口部である窓の断熱化こそ最も重要とかねてから強く主張し続けておられますね。 坂本 窓の断熱化、すなわち樹脂サッシと複層ガラスを組み合わせた窓の設置が建物全体の断熱化にいかに大きく寄与するかは多くのデータで十分立証できます。窓を断熱化すれば、省エネを実現しつつ冬を暖かく夏を涼しく快適に過ごせるようになり、しかも、室内の結露による健康障害を引き起こす心配もなくなるといったことはかねてから世界各地で実証されています。欧米や近くは韓国でも、早くからこうした利点が注目され多くの住宅や学校などの公共施設に樹脂サッシと複層ガラスの組み合わせによる断熱窓が設置されています。窓の断熱化はいまやこれらの地域では常識となっているわけです。中には複層ガラスの間にアルゴンを入れて断熱性能をさらに高める動きも見られます。最近は、中国でも樹脂サッシと複層ガラスによる断熱窓が市民の間に急速に普及しつつあります。 それにひきかえこれまでの日本では、長い間、多くの市民がそうした断熱窓の存在そのものを知らないままできました。このため日本全体における現在の断熱窓の普及率は欧米や韓国などを大きく下回っています。ただし、寒冷地の北海道地域は例外で、早くからほとんどの住宅で樹脂サッシと複層ガラスによる断熱窓が採用され、当たり前の商品となっています。注目されるのは、最近になってその断熱窓に対する関心と人気が北海道にとどまらず東北地域や関東、さらには南に飛んで九州や沖縄等の市民の間にも急速に広がり始めた点です。これは特筆すべきところと言えます。 --そうした中で、環境省が本庁舎の温室効果ガスの排出削減を目的に庁舎の窓に樹脂サッシと複層ガラスによる内窓を設置することにしました。この点について坂本先生の見解はいかがですか。 坂本 大いに評価しますね。もともと行政官庁は、産業界や市民に省エネを求めるだけでなく自らもどんどん優れたアイデアを出し、そしてそれを率先して実践していくべき使命を負っています。その意味から今回の環境省の施策は高く評価されます。これがモデルとなって、わが国全体に窓の断熱化機運が広まっていくことが期待されます。 --住宅といえば、先の国会で通った「住生活基本法」でも住宅の質の向上の一つとして省エネ化が重要と指摘されていますね。 坂本 住生活基本法は、量の確保から質の充実へと住宅政策を大きく転換させることを宣言したもので、時宜を得た政策と言ってよいと思います。同法に沿って行政当局がどういった具体策を展開していくかが注目されますが、最優先課題はやはり耐震化の推進でしょうね。しかし、それに劣らず重要なテーマーとして取り上げられてしかるべきなのは住宅の省エネ化の促進だと思います。もっとも私は、住宅だけでなく官公庁の建物や小中学校の校舎もどんどん省エネタイプに改修すべきだと考えています。 --しかしそうした思い切った改革には、行政当局のより強力なリーダーシップが必要となります。 坂本 最大のポイントは、全ての関係府省が一体となって住宅の在るべき姿を考え、そしてその実現に全府省が文字通り一体となって取り組んでいくかどうかにあると言えます。つまり一元化した政策の展開ができるかどうかです。さいわい、ここにきて若手の官僚の間にそういったムードが出始めています。この点はまことに心強い限りであり、今後の行動に大きな期待を寄せています。 石油資源を持たないわが国の場合、思い切った省エネ政策の推進は、まさに国内で新たな石油資源の確保を図ると同等の大きな意味を持ちます。いまがその正念場ではないでしょうか。塩ビ工業・環境協会が樹脂サッシと樹脂サイディングの普及推進委員会を設置して積極的に啓蒙普及活動と市場開拓活動を組織的に展開されている点は時宜を得た行動と言えます。今後も建築物全体の断熱・省エネ化に十分なリーダシップを発揮していってほしいと考えます。 ![]() 坂本雄三・東京大学大学院教授 |