2007年05月29日
「ロ・ハウス構想」の推進に取り組む
三木 健・経産省資源エネルギー庁省エネルギー対策課長

 ロハス(LOHAS:Lifestyle of Health and Sustainability)なハウスの普及推進を目的に設置された『「ロ・ハウス」構想推進検討会』が最近まとめた《住生活の充実と省エネルギー・環境対策の両立に向けて》と題する報告書が、いま様々な分野で大きな話題を呼んでいる。同報告書は、経済産業省、国土交通省、環境省の3省が事務局となって、学識者や産業界の実務者など合計18人が昨年7月から今年3月末までの9ヵ月にわたってディスカッションしてきた結果を取りまとめたもの。「これからのわが国にとっては“健康で快適な暮らしと、省エネ・地球環境への配慮を両立させる住まい”の実現が極めて重要」と指摘、そしてその実現のための課題について詳述するとともに具体的な提言も披露している点が注目される。そこで、同検討会によるディスカッションと今回の報告書の取りまとめの事務方を務めてきた一人である経済産業省資源エネルギー庁省エネルギー対策課の三木健課長に今回の報告書の持つ意味と今後の政策展開への活用策を聞いた。

— 先ずは、今回の報告書を取りまとめた『「ロ・ハウス」構想推進検討会』の概要からお聞きしたい。設置の背景と目的は何だったのですか。

三木 設置の経緯をざっとお話するとこうなります。住宅・住生活の省エネ・環境対策に関連する官庁としては、経産省、環境省、国交省の3省が挙げられますが、住生活の充実と省エネ・環境対策をさらに進めていくには、これら3省間の緊密な連携がどうしても必要です。そこで、環境省の地球温暖化対策課、国交省の住宅生産課、経産省の住宅産業窯業建材課と同じく経産省の私ども省エネルギー対策課の3省4課で相談した結果、具体的な施策を煮詰めていくにはやはり専門の検討会を設置すべきということになり、学識経験者の方々等にご協力をお願いすることにしたのです。さいわい、武蔵工業大学の岩村和夫教授や東京大学大学院の坂本雄三教授らの専門家と、住宅および環境問題に優れた知見と哲学をお持ちの産業人ならびに有識者の合計18人の方々が同意して下さり、岩村先生を座長に昨年7月6日に第1回会合を開くことができました。以降、今年3月末までに都合8回の会合を開いてディスカッションをお願いし、そしてその結果を取りまとめて公表したのが今回の報告書というわけです。

— 検討会の名称はいささかユニークであり、解説が必要ですね。

三木 これは私たち事務局が勝手に作ったいわゆる造語です。快適で美しくスマートな暮らしを目指すことを意味する「ロハス」と、住宅の「ハウス」を組み合わせたものですが、3省の連携による新たな取組みを表すものとして皆さんからご支持いただけたのでそのまま使ってまいりました。
 本来なら「省エネ住宅検討会」といった名称にすべきだったかも知れません。ただ、今回の検討会ではより前向きのメッセージを発信したかったのです。ご存知のように世の中には、“住生活の充実と環境への配慮は相反するもの”という誤った観念をお持ちの方々が少なくありません。地球環境に配慮した生活を送るには暑さや寒さをうんと我慢しなければならないとか、断熱材をぐるぐる巻きにしたような高価で窮屈な家に住まないといけないとか考え、ついつい環境対応を後回しにするという人々が多いのが実情です。しかし実際には、工夫しだいで双方の目的の両立は十分に可能なのです。会の名称の頭を「ロ・ハウス」としたのは、既存の誤った観念に囚われないで“健康で快適な暮らしと、省エネ・地球環境への配慮を両立させる住まいを皆で考えていきましょう”と広く市民の方々に呼びかけたかったからです。

— 省エネと言えば、最近の調査では京都議定書に基づくわが国のCO2排出削減目標のクリアは極めて困難であり、その要因の一つが民間の省エネの遅れと伝えられています。

三木 05年の温室効果ガスの排出実績は全体で90年対比8.1%増であり、うち家庭からの排出量は37.4%増となっています。産業や業務部門の省エネはもちろん重要ですが、家庭の省エネも大切であり、家庭の省エネの成否は大変に大きな意味を持っているのです。今回の報告書ではその点も重視して“がまんや無理をしないでも快適に暮らせ、しかもきちんと省エネもできる住まいを普及させていきましょう”と訴えているのです。
 
— そうした狙いを実現するためにはどんなことが必要になるのでしょうか。 

三木 詳しくは報告書の中の「ロ・ハウス普及に当たっての課題と提言」のところで紹介していますのでぜひ目を通していただきたいのですが、重要なポイントは4点に絞られます。 (1)コンセプト・イメージの共有(2)省エネ性能に関する情報提供・共有の基盤整備(3)新たな省エネ性能の評価手法の開発(4)省エネ住宅の普及を促進するインセンティブの4点です。

 (1)の点について言えば、現在の大きな問題点は住宅の環境・省エネに関して住宅メーカーと工務店と住まい手の間に共通するコンセプトやイメージが存在していないことです。これではなかなか前に進んでいかない。ですから先ずは、"快適な暮らしと、省エネ性・地球環境への配慮を両立させる住まい"という「ロ・ハウス」のコンセプトが住まい手に明るく前向きに受け止められ、かつその結果が新たな家作りという具体的な行動となって現われるように持っていくことが大切です。ですから、住まい手やステークホルダーに対して「ロ・ハウス」のコンセプトやイメージを広く訴求していくこと、これが第一の課題ということになるわけです。

 第(2)点で訴えているのは、住宅の性能を"可視化"し、それをレイティング(格付け)や表示(ラベリング)等によって分かりやすいかたちで多くの人々に伝達していくようにしようという点です。現在は、どんな家が省エネ性能に富んでいるかを一般市民がきちんと判断できる仕組みができていません。ですから、CASBEEと呼ばれる建築物総合環境性能評価システムをもっと普及させるなどで一般の人々が住宅の省エネ性能を容易に理解できるように持っていくことがとても大切なのです。それが実現できれば、買い手も“これなら冷暖房費の節約によって省エネしながらなおかつ快適な暮らしも送れることになるのだな”といった判断ができるようになるはずです。

 また第(3)点では、住宅の省エネ性能の評価に当たっては躯体の性能だけでなく高効率給湯器など内部の設備や機器も含めた総合的評価が大切なので、そのための新たな評価手法の開発が重要になる点を指摘しています。

 (4)について少し詳しくお話すると、ロ・ハウスにはどうしても一定のイニシャルコストがかかります。むろん快適な住生活が送れ、燃料に係わるランニングコストは従来の住宅を下回りますが、初期投資が若干高くなるのでどうしても多くの人の腰がひけがちです。ですので、ロ・ハウスの普及には補助金の交付や低利融資、さらには税制上の優遇措置といった経済的インセンティブがやはり必要になるということをこの(4)項で強調しているわけです。

— そうした内容の報告書の持つ意味について解説するとどうなりますか。

三木 これまで様々な分野で進められてきた住生活の充実と省エネルギー対策の在り方に関する議論をあらためて整理したのが今回の報告書ではないかと私は思っています。
現在は地球環境問題が全地球規模で活発に論議されるようになってきており、それに伴いあらためて大きくクローズアップされてきているのは家庭における省エネの重要性です。そうした中で“快適な暮らしと環境・省エネの両立は十分可能なので皆で実現を目指そう”と呼びかける報告書をタイミングよくまとめていただいた委員の皆様には深く感謝しています。ただし、この報告書はあくまでも出発点であり、このコンセプトをもっと広め、ここで指摘されている課題と提示された提案を行政も含めて十分に活用していくことが重要です。

— 3省で連携して取り組んでいく施策としてはどんなことが挙げられますか。

三木 具体策はこれから3省で十分に意見交換しながら煮詰めていくことになります。制度面の整備が必要であれば様々な関連法制度の見直しなり拡充も考えなければなりません。第4項で述べられている補助金交付や低利融資、税制面の優遇措置などのいわゆるインセンティブの拡大などは、早急に検討する必要があると思います。来年度の予算の概算要求等を見据え、縦割り行政だからだめだとの批判を払拭できるよう3省の知恵を結集して効果的な施策を早期にまとめるようにしたいですね。

— 快適な暮らしと省エネの両立には、建物の最大の開口部である窓の断熱・気密化も重要なテーマと言えるのではありませんか。

三木 全くその通りです。全世帯の窓の断熱改修を行えば3,500万トンのCO2の削減効果を上げられるとの試算もあります。経産省では、リフォ-ムの際に塩ビ樹脂サッシと複層ガラスを組み合わせた断熱窓を採用するケース等に対してNEDOから補助金を受けられる制度を使って断熱窓の普及を積極的に促進しています。さらには、窓の断熱性・省エネ性をわかりやすく表示する仕組みについても審議会で現在検討を進めているところです。省エネ法に基づいてガラスやサッシの表示制度が施行されることになれば、断熱性に優れた塩ビ樹脂サッシや複層ガラスにとっては大きなビジネスチャンスとなるのではないでしょうか。
 いずれにせよ、今回の報告書の作成にかかわってきた私たち3省の担当者が先ず始めなければならないのは「ロ・ハウス」のコンセプトをできるだけ多くの人々に共有していただくことです。ついては多くの方々からよいお知恵をどんどん提供していただきたいと切に願っています。


三木 健・経産省資源エネルギー庁省エネルギー対策課長