2009年04月27日
健康維持に大きく寄与する住まいの断熱化
住環境研が第2次調査でも実態を詳細に把握

上原事務局長に調査結果の概要と今後の活動方針を聞く

「住まいの高断熱化が人の健康に大きく寄与することがより一層明確になった」——。
結論をこう明快に表現した最新の調査報告書「住まいの健康影響度調査報告書」が、住宅建築業界や関係行政当局にとどまらず医学界や一般市民の間でも注目され話題を呼んでいる。
この報告書を作成したのは、建築と医学の両分野それぞれの研究者や有識者ならびに関係業界団体等で構成する「安全な住環境に関する研究会(事務局長;上原裕之氏(シックハウスを考える会理事長を兼務)」。昨年12月から今年1月にかけて全国およそ700の高断熱住宅の居住者2,400人を対象に実施したアンケート調査の結果を報告書に取りまとめた。
“より一層明確に”と表現したのは、「昨年10月から11月にかけて約100人を対象に実施した第1次調査で浮き彫りにされた高断熱住宅と人の健康維持との関わりの大きさが今回の本格調査の結果で一段と鮮明になったから(上原事務局長)」とのこと。調査に当たっては、前回同様に岩前篤・近畿大学理工学部建築学科准教授や杉田隆博・大阪府医師会勤務医部会顧問ら多くの学者や塩ビ工業・環境協会など関連団体が協力した。同研究会では、5月27日に都内で開催する「健康・省エネシンポジウムIN経団連ホール〓」でも詳細を発表するなどで調査内容をできるだけ広く世間に伝え、高断熱住宅の重要性を強くアピールしていく考え。
そこで上原事務局長に、今回の第2次調査の結果の持つ意味と今後の同研究会の活動方針を聞いてみた。


—— 先ずは、「安全な住環境に関する研究会」がどんな目的を持つ組織なのかをはじめにざっとご紹介いただき、そのうえで今回の第2次調査を含めた「住まいの健康影響度調査」に踏み切った目的と背景等についてお話しをうかがいたいと思います。
上原 会の目的を簡単に表現すると、(1)シックハウス症候群やヒートショックなど住宅に関係するといわれる健康被害を対象に空気質や温熱環境に関する調査・分析を行うこと(2)それによって、住宅が健康に与える影響についての知見を蓄積すること(3)その上で、関係する各学界や行政からの支援と消費者の参加を得ながら、多くの人々が安全かつ快適に暮らしていける住宅が供給されていく仕組みの構築を推進していくこと——の3点ということになります。メンバーは、建築と医学の両分野の専門家と有識者ならびに住宅や建材に関わりのある業界団体や企業等で構成されています。発足は06年4月でした。
以来約3年の間に建築、医学、消費者等々様々な分野の方々と多くの接触の機会を持ち、有益な知見を数多く得ることができました。しかしこれからは、実際に非断熱型の住宅から高断熱型の住宅に住まいを変えた人々からいろんな実体験を詳しくお聞きしていくことが極めて重要と考え、昨年秋に小規模のアンケート調査を実施してみたところ、予想していた以上に明確なお答えを沢山頂戴できたのです。例えば、高断熱の住宅に引っ越したら冬場にどの部屋に行っても寒さを感じなくなったとか、せきや肌のかゆみが減ったといった回答を数多く得ることができました。私たちとしては大いに元気付けられたわけで、ついては、より広くより深く実態を把握するにはアンケートの対象をもっと広げるべきと判断し、昨年末から今年はじめにかけて今回の第2次アンケート調査に踏み切ったのです。

—— その結果、これまでの公的な資料では明確に示されなかった住宅と健康との関わりについての様々な実情が明らかになったようですね。いくつか代表例を挙げて解説していただけますか。
上原 一つは、高断熱型の住まいで暮らすようになってからは冬場でも屋内のどの部屋でも温度差をあまり感じなくなったと回答した人が極めて多かったことです。ご承知かと思いますが、断熱対策を講じていない住まいの場合は冬場になると同じ屋内でも部屋によってかなり寒く感じる箇所がいくつも出てきます。トイレ、脱衣所、風呂場、廊下などがそうですね。ところが今回の調査では、高断熱住宅で過ごすようになってからはそうした部屋ごとの違いを感じなくなったと答える人がほとんどを占めたのです。樹脂サッシによる窓を採用した家屋の場合はそれが特に顕著に現われています。
以前から日本では、冬場になると脱衣所や風呂場でいわゆるヒートショックによって倒れる高齢者が急増する傾向にあります。そのまま亡くなったりあるいは命を落とさないまでも寝たきりの生活を余儀なくされたりする人が後を絶たないのが実情で、年間の死亡者数が交通事故のそれを上回るとの説さえあります。
この要因についてはこれまであまり明確にされてきませんでした。しかし実は最大の要因は、日本の家屋の多くが欧米先進国と異なり非断熱型であって、冬場の厳しい寒さから人の身体を十分に守れる設計になっていない点にあると言えるのです。このため、ヒートショックにとどまらず特に冬場は風邪を引き易いとか手足が冷えて体調を崩すといった人が多かったのです。日本の国民医療費は年々急膨脹していて財政を大きく圧迫していますが、その誘発要因の一つは、冬場において屋外に対してはむろんのこと屋内でも大きな温度差を発生させる非高断熱住宅にあると言って過言でありません。
住まいと人の健康との関わりはこのように極めて密接であり、この点についてはかねてから多くの専門家が指摘してきたことではありますが、今回のアンケート調査では実際の居住者によって実態がはっきり示されたわけです。戸建てであれ集合住宅であれ、居間だけでなく、寝室もトイレも脱衣所も窓や壁を断熱化した住まいに住むようになったとたんに冬場でも寒さを感じなくなったとの回答が圧倒的多数を占めたのですから。これは大きな収穫でしたね。

—— そうした回答が多数を占めることは事前に予想していましたか。
上原 あるていど想定はしていました。というのは、かつて私自身が非断熱型の古い家に住んでいて子供たちがシックハウス症状だけでなくアトピ−や悪性の風邪にさんざん悩まされてきたため、何とか事態を打開したいと考えて樹脂サッシの採用や壁の断熱化などに思い切って取り組んだ結果、屋内全体の温度を常に望ましい状態に保てるようになり、長年の悩みから一気に開放されたという経験を持つからです。この実体験は詳細なリポートにまとめて国交省に提出しています。

—— そのほかの回答の中で、特に上原さんの注目を引いたものがあればご紹介下さい。
上原 ほかにも大いに参考になる貴重な回答をいくつも得ることができました。例えば、同じ窓でも断熱性能が一段と高い樹脂サッシの窓を採用した住まいほど咳きが出る回数が減ったとか、手足の冷えに悩まされることが少なくなったとかの事例が多く報告されました。いずれも第1次の調査でも明らかにされた点ですが、2次調査で一層明確になったと言えます。これだけ多くの人々からはっきりしたお答えいただいたのですから、大いに価値のある調査であったと自負しています。

—— となれば次の課題は、せっかくの調査結果を今後どう生かしていくかということになります。
上原 そうですね。今回の調査でも明らかになったように、住まいの高断熱化は人の健康の維持・増進に大きく寄与しますが、もう一つ多くの皆さんに是非知っておいていただきたいことがあるのです。それは断熱化によって冷暖房機器の使用頻度を減らすことができて世界共通の課題となっている省エネ・省資源にも大きく貢献することになる点です。家計に及ぼすプラス効果も小さくありません。
ですから、これからはまさに国民運動の一つとして住まいの断熱化が強力に推進されていくべきと言えます。ですから私たち研究会も、今回の調査結果をできるだけ多くの人々に知っていただくように発表の機会を数多く求めていきたいと考えています。ついては、樹脂サッシ業界にとどまらず、化学系の断熱建材業界の皆さんも共同歩調で工務店や設計事務所、さらには一般市民等に広く啓蒙・PR活動を展開していくようにしていただきたいと思います。

—— 今回のような一般市民を対象とした実態把握アンケートの次の企画はお持ちですか。
上原 いま計画を煮詰めているところです。次回は1万人を対象に年内に実行したいと考えています。さいわい国土交通省がバックアップしてくださるようなのでまことに心強い。これが実現すれば、さらに説得力を持つ結果が得られ、そしてそれが住まいの断熱化の大きな国民運動に発展していく起爆剤になると期待しています。
 私たちの研究会は、クリアすべき課題をまだ数多く抱えています。ついては、ぜひ多くの方々に参加していただき、手を携えて、住まいの多くが高断熱住宅で占められる日が少しでも早くくるようにより効果的な活動を展開していくようにしたいと考えています。