2008年04月24日
経産省、生産革新研究会の報告書内容を公表
ダイセルの好事例と他の6社の導入の現状等を紹介
【カテゴリー】:行政/団体(新製品/新技術、環境/安全)
【関連企業・団体】:ダイセル化学、経済産業省

 経済産業省化学課は、同課が昨年5月に設立した「生産革新研究会(座長;西谷紘一・奈良先端科学技術大学院大学教授)」が計6回の会合の論議を経てこのほど取りまとめた報告書「化学/プロセス産業における革新的生産システムの構築〜新たな生産方式の胎動〜」の内容を23日に明らかにした。

報告書の概要
http://www.meti.go.jp/press/20080423007/02.pdf

報告書全文
http://www.meti.go.jp/press/20080423007/03.pdf

 同研究会は、一部の化学企業が抜本的な生産革新に取り組んできた結果、生産性の向上、製造原価の縮小、技術・技能の伝承と人材育成、安全・安定運転の実現等で多大な成果を上げている点に注目した同課が西谷教授と関係化学企業の製造部門のリーダーに具体的な事例と今後の広がりの可能性等について検討を要請したことによってスタートしたもの。

 今回まとめた報告書では、自社にとどまらず他の化学企業の生産革新にも大きな波及効果をおよぼしているダイセル化学工業の生産革新事例を取り上げて同社の手法の特徴や今後の普及の可能性について検討した結果を詳細に紹介。そして、「定量的にも定性的にも生産現場で大きな効果を上げ、加えて、安全・安定運転の確保や技能・技術の伝承、さらには現場のモチベーションの向上や企業内・企業間コミュニケーションの円滑化等によって経営面でも多大な効果を上げていて、今後他の製造現場への広がりが期待できる」と、“ダイセル方式”に高い評価を下している。

 現場における定量的な効果については、すでに同社網干工場で(1)製造原価を20%削減できていること(2)生産性(一人当たりの付加価値)が3倍に増えたこと(3)工場従業員を60%減らすことができたこと(4)オペレーション負荷件数が80%以上削減できたこと(5)アラーム発報数が80%以上減ったこと、の5点を具体例として挙げている。

 また定性的な効果については、これまで熟練オペレーターが知識と経験に基づいて独自の判断で進めていたプラントの操作・調整作業等を、科学的に整合性が検証され標準化(可視化=見える化)された総合的な情報・データ表示システムの開発とその活用によって若手のオペレーターでもより的確・高効率に実行していけるようにした。

 プラントの異常発生時に異常発生箇所やその原因ならびに優先的対処方法などを即座に表示するシステムとプラント停止前に迅速・確実に設備をコントロールできる仕組みとを確立したこと等が大きいと評価している。いずれも、複雑なプラントやパイプの内部の変化を直接視認できない化学プロセス現場の悩みの解消に大きく寄与し、安全・安定操業と生産性の効率向上への貢献度が極めて高い文字通りの革新的生産システムという評価である。


<参考>
「ダイセル化学における生産革新の取り組み」
http://www.meti.go.jp/press/20080423007/04.pdf


 同報告書では、こうした点も含めたダイセル方式の持つ特徴として以下の5点を挙げている。(1)総合オペラビリティスタディ(2)シングルウィンドウオペレーション(3)全体の最適化(4)段階型のアプローチ(5)常に向上していく仕組み、の5項目である。

 (1)の総合オペラビリティスタディは、オペレータが何をどのように考えながら業務を進めているかを入念なヒアリングを通じて洗い出して標準化・システム化するというもの。熟練オペレータの“暗黙知”を“形式化”し、その後にノウハウを標準化して技術的な裏打ちを行うことで当該部門全ての製造技術の集大成を図ると同時にノウハウの標準化も実施して業務の効率向上を目指すという手法である。オペレーターがやりがいや働きがいを持てるようになる点も大きな副次効果の一つとしている。

 (2)のシングルウィンドウオペレーションは、プラントの異常発生時にオペレータが正しく迅速に判断を下せるように想定原因リスト、対処方法リスト、対処方法の選択に必要な基礎知識等を即座に提示する意思決定支援システムを予めきちんと整備しておくというもの。

 非常時に一つの運転操作画面上で誰もが高度なオペレーション技術を活用できるようにしておくとともに、オペレーターが適切な判断を行うために必要な信頼性の高い情報をタイムリーに表示してトラブルを未然に防げるように工夫している点がダイセル方式の特徴の一つと指摘している。

 (3)の全体の最適化は、多彩な製品を製造するという化学工業特有の製造システムの中で原料から最終製品まで全てに適正な管理が可能となるように全体のフローの再構築を行うというもの。同社では、部門ごとに異なっていた製品や機器の呼称を統一したり、従来の部門の括り方を見直して原料から製品間での流れを再統合したりして新たなオペレーション範囲を構築してコストの最小化や利益の最大化、エネルギーの最小化等を実現している。

 同研究会が注目しているのは、同社がこうした生産革新手法の確立と実行に当たって段階型アプローチ手法を採用している点だという。最初のステップ(同社のいう0段階)でムダとロスを再認識して生産革新に対するモチベーションを社員に植え付け、次ぎの段階(同第1段階)でムダ・ロスの徹底排除を実現。そのうえで総合オペラビリティースタディとシングルウインドウオペレションに踏み出すという進め方である。これがダイセル方式の4番目に挙げられる大きな特徴であり、このサイクルを繰り返すことで常に向上を図っていくようにするのが第5項目の特徴。

 同報告書では、こうした特徴を持つダイセル方式に着目して自社の製造現場の生産の革新に活用中の企業の現状も紹介している。化学課では、こうした点から判断しても今回の同研究会の報告書が化学/プロセス産業全体の生産革新に寄与していくことを期待しているという。