2008年06月16日
「中国は成長の限界を超えられるか」肱岡啓氏の講演要旨
【カテゴリー】:海外
【関連企業・団体】:なし

 横浜企業経営支援財団が12日に開いた第1回グローバルビジネスサロンで、肱岡啓・三井住友銀行外国業務部部長の講演会を聞いた。タイトルは「上海で売る 中国で売るー13億市場への挑戦」、テーマは「中国は成長の限界を超えられるのか」。

 肱岡氏は、
(1)中国の購買力の源泉
(2)現在の成長モデルとその限界
(3)日系企業は中国一般消費者宛販売モデルの時代
の項目をテーマに大要以下のように講演した。

 中国の購買力のある都市部の人口は現在約5,000万人(個人金融資産10万ドル以上)である。1,850万世帯、4,500万人だ。月5,600元(約8万円)、年収で100万円以上(ベンツに乗れる)の人たちである。夫婦であればダブルインカムとなる。

 しかも上海の場合でみると、物価が日本の5分の1か、10分の1と安い。生活費が安いので住宅、車を買い、海外旅行ができるようになった。中国はいま、3改といって「住宅、教育、医療」の改善を行っている。今回は住宅に絞って話をしたい。

 中国は98-03年の6年間に約5億人の都市生活者を対象に国有住宅を払い下げた。これを購入した人は円ベース2,000万円の人で、年200万円が還付された。6年間で1,200万円となった。
また、公務員には例えば1戸30万元の住宅を2万—3万元で払い下げた。そのうえこの住宅を他人に売っていいことにしたため、処分すれば28万から27万元の収入になった。この時期、年20-30%の物価上昇率だったので、80万元で売れたものもあるという。

 所得800万元(1,200万円)まで課税されない中国では、そのまま収入となったが04年以降は改正された。こうして富裕層が一挙に生まれたわけである。このやり方は上海、江蘇省が中心で、全国一律ではない。

 所得が増えた人はこれを担保に、ローンで住宅を何軒も購入できた。ダブルインカムの家庭は高等教育を目指し、海外留学が可能となった。ただし、移動を制限され、職業の選択ができない地方の農民との所得格差が広がり、問題化した。

 農民は年間5元を出すことによって政府から45元の援助が受けられるが、小学校まで地元で就学が義務付けられている。省ごとに小学生の人数が決められている。この結果、大学受験までに都市校との学力差が出る。

 以上のように中国は富裕層による購買力の向上があったわけだが、やはり外資の進出が経済成長を大きく支えてきた。外資による雇用機会の拡大、社会保障の充実(外資からの基金流入)、高等教育機関の産業化などである。

 また、地方政府の企業誘致も大きな成果をあげている。1949年に評価額0だった開発区の土地代はいまや1平方キロ当たり2,953ドル(土地代)となり、インフラ整備費50ドルを除いても2,900ドルの収入をあげている。(日本から総額約22兆円)

 これまでの成長モデルとしては80年代の農民の時代(82年に人民公社解体)、93-04年の工業の時代から、いま商業の時代に入りつつある。今後のシナリオとしては年7.5%の成長率を維持しつつ、投資と輸出を続け、そのあと消費、第2次産業、第3次産業に移行する産業構造の変化が見られよう。

 一方で産業基盤のレベルアップを目指すインフラ投資や環境改善、都市・農村の構造改革投資が進められる。水資源の確保、食糧自給体制の維持、農業の産業化、過剰労働力の吸収なども課題だ。

 中国はいま、社会主義市場経済を名乗っている。これから不動産市場から資本・金融市場の経済に向かう。配当、キャピタルゲイン、貸付利息などへの取り組みが求められている。商業、サービスでは安定した品質維持、流通ルートの確立、ブランド形成の努力、模倣対策、債権回収システムの構築、人材と人材隆室の防止策などが必要である。

 とくに卸売、小売、流通サービス業、生保、損保、クレジットカード、コンテンツ、ソフトなどが重要。中国ではまだ流通段階に資金がない。中国でつくって、中国で売るという意識を持たなければならない。中国市場での生産、拡販型モデルとしては資生堂、サントリー、TOTOなどがある。