2020年01月06日
<年頭挨拶> 石油化学工業協会 会長・森川宏平
【カテゴリー】:行政/団体
【関連企業・団体】:石油化学工業協会
森川宏平石油化学工業協会 会長

 2020年の新春を迎え、謹んで新年のお喜びを申し上げますとともに、年頭にあたりご挨拶申し上げます。
 初めに、昨年を振り返りますと、9月の台風15号と10月の19号・21号に象徴される想像を超えた自然災害の発生がありました。15号による強風の被害は大きく、千葉県を中心に停電が長期に続くなど市民生活に甚大な被害をもたらしました。19号は、長野や関東から東北までの広域にわたり記録的豪雨による水害を引き起こし、物流網の寸断などのインフラの脆弱性を痛感させられた災害となりました。被災地の皆さまには心からお見舞いを申し上げますとともに、被災地の一日も早い復興をお祈り申し上げます。

 また、昨年5月には今上陛下が即位され令和がスタートし、日本中に祝意があふれた年でもありました。本年令和二年は、半世紀ぶりに日本で夏季オリンピックとパラリンピックが開催されます。大会の競技への支援は勿論のこと、訪日される各国の観光客に対しても、日本の良さをアピールする絶好の機会です。2020年東京オリンピック・パラリンピックの成功を祈念しております。

 さて、世界経済を見ますと、昨年は米中の貿易摩擦の影響が顕在化した年で、世界経済の下振れリスクの拡大は、もはや単純な二国間だけの問題ではなく、グローバル化された世界におけるサプライチェー
ンへも大きな影響を及ぼしており、世界貿易量の減少は、我が国でも内需としている「間接輸出製品」の大きな落ち込みに表れております。
 我が国としては、環境の変化に迅速かつ機敏に対応することが求められる年であり、石油化学業界としても正面から内外の課題に引き続き取り組んで行くことが重要と考えております。

 国内の石油化学業界の状況を見ますと、エチレン設備の稼働率は、2013年12月以降72ヵ月連続で90%超を維持しており、実質的フル稼働になる95%以上は2015年11月から昨年の11月までの間で5ヵ月を除く通算44ヵ月連続でした。なお、昨年8月以降の3ヵ月は、夏場の暑さや台風の影響により95%を割り込みましたが、11月には再び95%超えとなりました。(以上:昨年11月までの実績)。このような高稼働が継続しているときこそ安定供給責任を果たすため、さらなる保安・安全の確保が重要となります。

 このような状況下において、当協会としては我が国の石油化学産業の持続的発展に向け、以下の諸課題に積極的に取り組んでまいる所存です。

【保安・安全の確保】
 保安・安全の確保は、最重要課題であり、事業を運営していく上で最も重要な基盤であることは言うまでもありません。この理念を踏まえ、保安・安全に対する以下の取り組みを行ってまいります。

 (1) 保安に関する経営層の強い関与
保安・安全の確保、向上のため、自社内における取り組みに加え、現場に最も近い経営層である事業所長の保安に関する意見交換会を、昨年に引き続き開催します。また、トップの保安に関する「安全メッセージビデオ」の更新版製作検討についても、昨年に引き続き「更新検討WG」にて、見直しのための情報収集、詳細検討を行います。

 (2) 安全文化の醸成
保安推進会議・保安表彰式、事故事例巡回セミナー等の開催により、トラブル情報・経験や、保安の取り組みに関する情報の共有化、危険に対する感性の向上等を進めてまいります。
また、「産業安全塾」についても、引き続き充実させ、人材育成にも努めてまいります。

 (3) IoT、AIの活用
産業保安に関するスマート化に向けた取り組みの一環として、国の実証事業として2017年より検討を継続してきた「保温材下配管外面腐食(CUI)の予測精度向上」(IoT活用事業)の取り組みについて、2019年より自走段階に入り、CUI予測モデルのさらなる精度向上と活用実証を図っております。
    さらに、IoTやAIなどの様々な新技術の適用可能性について検討を進め、操業の安定化、保安の向上に努めてまいります。
 (4) 産業保安に関する行動計画については、前年度のフォローアップを行い、2020年度の行動計画を策定します。

【事業環境の基盤整備】
  我が国の石油化学産業が存在感をもち、持続的発展を遂げていくため、事業環境の基盤整備に取り組んでまいります。
 (1) イコールフッティング
グローバル化が進展する中で、厳しさを増す国際競争に打ち勝ち、持続的発展を遂げてゆくためには、諸々の税制・規制の面でのイコールフッティングが極めて重要です。引き続き、法人実効税率引下げ等の税制改正や規制改革の実現に向け積極的に取り組んでまいります。

 (2) 定期修理工事(定修)の課題等に関する検討
当協会では、一昨年に定修に係る課題を明らかにした上で、解決に向けた取り組みを検討し、この検討結果を第3次石環検答申として経済産業省へ提出しております。さらに昨年は、答申の内容を具現化するため、「定修の在り方」について関係事業者団体5団体および有識者とともに「定期修理研究会」を立ち上げ、「定修の在り方」を検討しているところです。

【グローバル化対応の強化】
 米国におけるシェール革命の進展により、いよいよその直接的な影響がアジアにも及んでまいりました。また、世界の石油化学産業の地図が描き換わる一方、人口減や製造業の海外移転等による内外需給構造の変化に伴い、我が国石油化学産業においてはさらなるグローバルな展開が求められております。

 (1) アジア石油化学工業会議(APIC)の開催
 アジアの石油化学企業が相互にコミュニケーションを図り、その健全な発展に貢献するための場として、アジア各国の協会と連携を図り、毎年アジア石油化学工業会議(APIC)が開催されております。本年のAPIC2020は5月にインド協会の主催でニューデリーに於いて開催される予定です。メンバー協会と協力しながら成功裏に向けて取り組んでまいります。特に、2017年の札幌大会から設置された「環境分科会」が定着してきた感があり、この充実に向け協力してまいります。
 
 (2) 海外の情報収集等
 海外の石油化学情報、原料関係、国内外の需給構造の変化や、石油化学産業を巡る国際動向に関する情報収集等を行い、また、会員会社のニーズを踏まえたテーマでの講演会の場を通じて意見交換等を行ってまいります。

 (3) 環境問題
グローバルな環境問題として認識されている廃プラスチックの問題について、当協会を含む5団体を共同事務局とし、化学会社をメンバーとする「海洋プラスチック問題対応協議会」(JaIME)を一昨年9月より運営しておりますが、同協議会としては今年、アジア新興国各国のプラスチック産業に関連する方々を日本にお招きして、日本の廃棄物管理を約1週間にわたり学んで頂くセミナーを開催するほか、国内での啓発活動として中学校の理科教材としてのプラスチック教育用DVDを現場の先生方と作り上げていくなどの活動をしてまいります。

 以上、三点に絞って述べさせていただきましたが、ほかにも例えば、次世代を担う優秀な人材を確保するために、会員各社共通の課題である機械・電気系エンジニアの採用支援を目的とするキャリアセミナーを全国各大学に赴き開催する、またサイバーセキュリティーの面では、本年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向けて対応力強化の必要性が強まっていることから、これについてのサポートにも注力してまいります。さらに各種刊行物の発行やマスコミ等のステークホルダーへの情報発信といった幅広い広報活動も引き続き展開してまいります。

 石油化学産業は、日本の「ものづくり」におけるサプライチェーンの出発点であるとともに、自動車・電機等の分野での先端技術開発に不可欠な機能性素材を創出しております。石油化学産業の強化は、日本の「ものづくり」の強化につながります。会員各社ともその自覚と誇りを持って事業の発展、競争力の強化に取り組んでいるところです。

 今後とも当協会への一層のご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
最後に、日本経済の着実な回復とさらなる発展を願うとともに、関係各位の益々のご活躍とご健勝を祈念し、新年のご挨拶といたします。

以 上