2020年07月03日
東北大、スピンのねじれが起こす電子の変位発見
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:東北大学

東北大学 多元物質科学研究所の木村宏之教授らの研究グループは、スピンの配列と強誘電性が強く結びつくマルチフェロイック物質の代表例であるYMn2O5で、2つの量子ビーム(放射光X線とミュオン)を用い、マンガンイオンのスピンがらせん配列することによって引き起こされる酸素イオンのスピン偏極を観測することに成功したと発表した。強誘電性のミクロな発生機構を、放射光X線とミュオンの協奏的利用によって明らかにした。

YMn2O5では、横滑りらせん(サイクロイド)型という特殊なスピン配列の発達とともに強誘電性が現れることが知られている。

今回研究では、放射光による共鳴X線散乱(RXS)とミュオンスピン回転(μSR)を用いて、YMn2O5中の酸素イオンのスピン偏極を詳細に調べ、サイクロイド型スピン配列の発達に伴って陽イオンのマンガンから陰イオンの酸素への局所的な電子移動が起きることを発見した。このような電子の変位は強誘電性を誘起するので、マルチフェロイック物質の強誘電性の発現に電子変位が寄与していることを実験で確認した初の例となった。

通常、スピン偏極の観測には、磁化測定や中性子散乱などの手法が使われる。だが酸素のような陰イオンで生じるスピン偏極は、大きさと密度が小さいためにこうした手法では観測が難しい。

今回、酸素を狙い撃ちできるRXSとμSRを協奏的に組み合わせることで、その空間配置を定量的に評価することに成功した。これまで観測が困難だった物質中のミクロな現象を捉える上で、マルチプローブ利用が極めて有効であることも同時に示された。

同研究の成果は6月29日(米国時間)、学術誌「Physical Review B」に掲載され、「注目論文」に選ばれた。


<用語の解説>
◆マルチフェロイック物質
物質に電場を印加すると正の電荷と負の電荷(電子)が一様に変位し電気分極が生じる。電場を外しても電気分極が保たれる物質を強誘電体、その性質を強誘電性と呼ぶ。強誘電性がスピンの配列によって生じている物質をマルチフェロイック物質と呼び、磁場(電場)をかけることにより電気分極(磁化)が応答する電気磁気効果を示すことから、単一物質で複雑な機能を持つ電磁デバイスとしての応用が期待されている。