2020年08月07日
理研、精神疾患に神経細胞の不均衡が関連
【カテゴリー】:ファインケミカル
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理化学研究所 脳神経科学研究センターの加藤忠史チームリーダーらの国際研究グループは7日、1人だけが精神疾患を発症した不一致な一卵性双生児のペアのiPS細胞由来脳オルガノイドを用いて、ヒト脳の発達過程における興奮性神経細胞と、抑制性神経細胞の不均衡が精神疾患の発症に関連することを発見したと発表した。

同成果は、統合失調症や躁うつ病など精神疾患の病態解明や予防法・治療法の開発に貢献できる。

精神疾患の発症に関わる分子・細胞レベルの詳しいメカニズムについては、患者それぞれの遺伝的背景に多様性があり、生きている患者の発症前の脳を直接分子・細胞レベルで調べる方法がないため、不明な点が多い。

今回、研究グループは、統合失調感情障害双極型または統合失調症に関して不一致な一卵性双生児3組から樹立したiPS細胞を用いて、脳オルガノイドや神経前駆細胞を作製し、患者と健常者の脳発達期の違いを調べた。

遺伝子発現解析および形態解析を行った結果、健常者と比べ、患者では、脳発達の初期段階において抑制性神経細胞への分化が亢進していることを見いだした。神経細胞のアンバランスな運命付けが精神疾患の発症に関連することが強く示唆された。

本研究は、科学雑誌「Molecular Psychiatry」掲載に先立ち、オンライン版(日本時間8月7日)に掲載される。


<用語の解説>
◆脳オルガノイド :
オルガノイドとは、生体内で存在する器官に類似した培養環境で生み出す組織構造体のことであり、近年盛んに研究が進んでいる技術領域である。脳オルガノイドは、ES(胚性幹)細胞やiPS細胞から3次元で分化誘導した脳組織を指し、2013年に理研CDBの笹井芳樹博士(当時)やオーストラリアIMBAのJurgen Knoblich博士らのグループによって開発された。2次元培養法を用いた神経分化誘導と比べて、より生体内に近い細胞同士の相互作用を再現できる。小頭症や滑脳症、自閉症などの疾患モデルが報告されている。