2020年09月28日
九大、鉄鋼材料をしなやかにする水素の一面発見
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:九州大学

 鉄鋼材料に水素が侵入すると、その強度と延性が劣化する現象は「水素脆化」として古くから知られ、逆に、水素に曝された状態でも優れた力学性能を発揮できる鋼材の開発が、安全な社会実現のためにも求められているが、九州大学大学院 工学研究院の松永久生教授(水素利用工学)らはこのほど、水素侵入に伴い生じる材料物性変化の一部を有効利用し、鉄鋼の強度と延性双方の大幅な向上を図るという前例のない研究で成果をあげたと発表した。
 
 合金成分量を最適化したFe-Cr-Ni鋼(現行の水素エネルギー機器の主要構成材料に類似)に対し、高温・高圧水素ガス曝露により高濃度の水素を添加した後に引張試験を行うことで、引張強度×伸びの指標で30%、破断応力にして50%もの向上を達成することに成功した。
 
 またその発現要因は、水素が転位と呼ばれる格子欠陥の移動に対する障害物の役割を果たすことと、双晶変形を促進して結晶方位差の大きい内部界面を次々に生み出すことにあり、これらの効果の重畳によって材料の変形抵抗と加工硬化性能が広いひずみ範囲に渡り維持されることを解明した。

 以上の成果は「鉄鋼材料は水素により脆化する」という従来の固定観念を根底から覆すものであり、この先の耐水素構造用材料の開発にも新たな風を吹き込むと期待される。

 同研究成果は、金属材料工学分野の権威ある英文誌「Acta Materialia」のオンライン速報版に8月15日付で掲載された。
 

九州大学ホームページ :
https://www.kyushu-u.ac.jp/f/40583/20_09_16_01.pdf