2020年12月15日
産総研、ゲノムが膜で包まれたバクテリア 地下で発見
【カテゴリー】:新製品/新技術
【関連企業・団体】:産業技術総合研究所

産業技術総合研究所 地圏微生物研究グループの吉岡 秀佳 研究グループ長らは14日、日本電子、マリン・ワーク・ジャパンなどの研究陣と共同で、天然ガス田などの地下環境でのメタン生成活動に重要な役割を担う細菌(バクテリア)、RT761株の培養に成功したと発表した。新しい門に分類される常識外れの細菌の培養に成功した。

<ポイント>
・世界中の地下環境に最も多く生息する「門」レベルで新しい細菌群を世界で初めて培養
・細菌(原核生物)にも関わらずゲノムDNAが膜で包まれているという、従来の常識を覆す細菌
・天然ガス田など地下環境でのメタン生成機構の解明や、原核生物の再定義や生物の進化と多様化の理解に迫る重要な成果


この菌株は一般的な細菌とは細胞の構造が根本的に異なり、遺伝情報を持つゲノムDNAが細胞内で「膜」に覆われていた。また、RT761株が最も上位の分類階級にあたる「門」レベルで新しい細菌種であることを証明し、この菌株を代表とした新しい門をAtribacterota(アトリバクテロータ)、この菌株を新種 Atribacter laminatus(アトリバクター ラミナタス)とする新学名を提案した。

生物は「原核」生物(例:大腸菌や乳酸菌などの細菌)と「真核」生物(例:ヒト、動植物、カビなど)の2つに大別される。

両者の決定的な違いの1つはゲノムDNAが細胞内で膜(核膜)に包まれているかどうかであり、原核生物で核膜を持ったものは発見されていなかった。しかし、今回、培養したA. laminutus RT761株は、本来、原核生物が持つはずのない「ゲノムDNAを包む細胞内膜」を持っていた。原核生物の根源的な特徴を改めて見直し、その再定義を迫る可能性を示す。また、この菌株を代表とする新たな門Atribacterotaは世界中のメタンが賦存する地下環境(天然ガス田やメタンハイドレートなど)に広く生息する細菌グループの1つであることから、地下環境で見られる活発なメタン生成活動に果たす地下微生物の実態や役割の解明への貢献が期待される。

この研究成果は2020年12月14日(英国時間)に「Nature Communications」誌に掲載。