2021年03月30日
産総研・東大「ナノすりガラス」で超親水性実現
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:産業技術総合研究所

東京大学のマテリアルイノベーション研究センターと産業技術総合研究所の共同研究グループは29日、ナノメートルスケールの凹凸を施した「ナノすりガラス」を開発したと発表した。ナノすりガラスの表面は、150℃の高温でも、1日程度の長時間にわって超親水性を維持できる。高温での印刷が必要な有機半導体でも良質な単結晶薄膜を大面積製造することが可能となった。

インクを用いた印刷プロセスには、インクの拡がり性をよくする親水性表面が適している。一般的に、親水性表面は、親水性コーティング、UV光照射、プラズマ処理などで得られるが、汚損によって親水性が低下するなど継続的に親水性を維持することは困難だった。

研究グループは今回、物質の表面のわずかな凹凸と表面の濡れ性が関係していることに着目した。
一般的なガラスの表面を弱酸である炭酸水素ナトリウム水溶液を80℃で処理することで、ナノメートルスケールのわずかな凹凸(1ナノメートル程度)を形成した。

機械的な研磨などにより表面にマイクロメートルスケールの凹凸加工を施したガラスは「すりガラス」と呼ばれるが、これと区別するために今回研究で開発したものを「ナノすりガラス」と命名した。ナノすりガラスの表面では水がよく濡れ広がり、超親水性の指標である水の接触角は3℃以下となることが分かった。


<用語の解説>
◆接触角 :液体の表面への濡れやすさの指標で、液滴と固体表面とで形成される角度を接触角と定義する。

この超親水性状態は、150 ℃の高温でも1日程度維持できる。一般的な親水性コーティング剤や表面化学種の修飾効果は、熱などで表面化学種が劣化し、親水性の維持が困難なのに対し、ナノすりガラスは物質の表面の凹凸構造による親水性を利用しているため、熱による親水性の劣化を抑制できる。

今回、高温での印刷が必要な有機半導体のモデルケースとして、ナノすりガラス表面に高品質な単結晶薄膜の大面積製造を検証した。その結果、150 ℃でインクから印刷したn型有機半導体薄膜を1cm角以上の大面積(従来法の50倍程度)で製造することに成功した。

超親水性ナノすりガラスは、低環境負荷なプロセスでの製造が可能であり、表面平滑性に優れ、十分な透明性を有している。同研究成果は、独国科学雑誌「Advanced Materials Interfaces」3月29日版に掲載された。