2021年04月13日
北大、「推論」に関わるセロトニン神経核を特定
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:北海道大学

北海道大学大学院 医学研究院の大村 優講師らの研究グループは12日、脳の背側縫線核という場所のセロトニン神経活動が推論を行うために必要であることを明らかにしたと発表した。

これまでの研究では、セロトニンが推論を用いた意思決定に関与することが間接的に示唆されてきたが、技術的な限界から直接的な証拠は得られていなかった。そこで研究グループは、近年発展の著しい光遺伝学的手法を用いて、脳内に複数存在するセロトニン神経核を別々に操作することで直接的な証拠を得た。

マウスが推論を行っていると考えられるタイミングでセロトニン神経活動だけを抑制すると、背側縫線核というセロトニン神経核を抑制した場合にのみマウスがほとんど推論をせず、単純に習慣的な行動のみを繰り返すことがわかった。つまり、直接経験したことだけに基づいて行動するか、それとも直接経験していないことも脳内でシミュレーションして推論するか、という生物の生存に重要な調節を一部のセロトニン神経が行っていると考えられる。

従来は脳内セロトニンは不安や幸福感などに関与していると考えられてきたが、今回の研究はセロトニンの新たな役割を見出したといえる。また、この習慣ー推論のバランス調節は人工知能が学習していく上でも重要な問題であり、強迫性障害などの一部の精神疾患においてもこの調節に不調をきたすことが知られている。

将来的にはこの研究が脳科学に基づく人工知能への応用や精神疾患治療への応用につながることが期待される。

同研究成果は4月9日公開の「Current Biology」誌にオンライン掲載された。


<用語の解説>
◆ 光遺伝学 : 特定の光波長に応答して活性化する分子を標的とする神経細胞だけに発現させ 標的の神経細胞活動を光の ON-OFFで調節する手法。


ニュースリリース参照
https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/210412_pr.pdf