2021年06月14日
北大、世界初・免疫老化と腸内細菌の遷移機構 解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:北海道大学

 北海道大学大学院 先端生命科学研究院の中村公則准教授は11日、綾部時芳、玉腰暁子教授らとの共同研究で、小腸のパネト細胞から分泌される自然免疫の作用因子、抗菌ペプチドαディフェンシンが高齢者では若年者に比べて低く、それが高齢者の腸内細菌叢の変化(遷移)に関与していることをはじめて明らかにしたと発表した。

 健康な成人を対象にした、この加齢に伴うαディフェンシンと腸内細菌が形成する腸内環境に焦点を当てた研究は、人の「免疫老化」の全く新しいメカニズムを明らかにした世界初成果となる。

 これまで,高齢者では食事内容や運動などの生活スタイルの変化が腸内細菌叢に影響することが示唆されていたが、実際にどのようなメカニズムで年齢とともに腸内細菌叢が遷移していくのかはよく分かっていなかった。

 これまで新生児期から老年期にかけて、腸内細菌叢の組成が変化していくことはよく知られていたが、そのメカニズムの詳細は分かっていなかった。 
 
 中村准教授らはまず、年齢が高い人ほど小腸パネト細胞が分泌するαディフェンシン量が低いという免疫老化を明らかにした。さらに、αディフェンシン低下が中高年者に比べた高齢者の腸内細菌叢の組成変化に関与することを示した。

 これによって、これまで不明だった加齢に伴う腸内細菌叢の遷移のメカニズムとしてαディフェンシンの重要性が明らかになった。今後、腸内細菌叢の異常が関与する様々な疾患の予防や新規治療の開発を通して、健康寿命の延伸に貢献すると期待される。

 同研究成果は加齢医学の国際学術専門誌「Gero Science」6月8日付オンライン版に掲載された。


<用語の解説>

◆パネト細胞 :パネート細胞(Paneth 細胞)とも言われる小腸上皮細胞の一系統。パネト細胞は、細菌や神経の刺激,さらにはある種の食成分の刺激などにすばやく応答して、α ディフェンシンを小腸内腔に分泌して腸管自然免疫と腸内細菌との共生を担当する。また幹細胞とともに小腸上皮の全ての細胞を再生、分化させることにも関わる。

◆ ディフェンシン  :自然免疫ではたらく主要な作用因子である抗菌ペプチドの一つ。消化管においてはパネト細胞の顆粒だけに存在しており、様々な刺激を受けて分泌される。分泌されたα ディフェンシンは,腸内細菌叢の組成を制御して腸内環境の恒常性を保っている。α ディフェンシンの分泌量が低下したり,質の異常が生じると、腸内細菌叢を破綻させて様々な病気に関与する。