2021年06月21日
名大「ナノ素材による健康被害のメカニズム」解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:名古屋大学

 名古屋大学 医学系研究科の橋本直純准教授(呼吸器内科学)らのグループは21日、大阪府立大学などとの共同研究で、ナノサイズの人工微粒子(ナノ粒子)の肺への沈着が引き起こす炎症のメカニズムについて、細胞の小構造エンドソームにおける活性酸素の発生が炎症の制御物質として重要な働きをすることを解明したと発表した。

 炭素やシリカなどを原料としたナノサイズの人工物(ナノマテリアル)は、食品や化粧品、医薬品などへの応用が進み、生産量も増えているが、一方では健康被害の可能性も懸念されている。
 
 とくに肺は、これまでも微粒子吸引による健康被害が報告され、肺傷害のメカニズムのさらなる理解と対策が求められている。

 研究チームは今回、ナノマテリアルとして代表的なシリカ粒子に着目し、大きさや表面化学特性の異なる粒子をマウスの肺に投与し、肺の炎症を分析した。その結果、ナノサイズのシリカ粒子により起こる肺の炎症と比べ、大きな径の粒子や表面を化学修飾した粒子では大幅に軽減することが分かった。
 
 次に肺の中でシリカ粒子を取り込むマクロファージを分析した結果、ナノ粒子は細胞の小構造物・エンドソーム(貪食小胞)の中に活性酸素の異常産生を引き起こすことを見出した。さらにエンドソームの活性酸素を制御するNOX2という酵素の働きを抑制することで、炎症誘導因子の産生を軽減できることも分かった。

 この研究結果は、これまで詳細が不明だったシリカナノ粒子による活性酸素を介した肺傷害のメカニズムを
明らかにするもので、今後、微粒子の細胞毒性を調べる新たな手法として応用が期待できる。

 同研究成果は、国際科学誌「Particle and Fibre Toxicology」電子版(6月17日付)に掲載された。

<用語の解説>
◆NOX2とは : NADPH オキシダーゼ(NADPH から受け取った電子を酸素分子に渡すことで、ROSの一種であるスーパオキシドを産生する酵素群:NOX)のひとつで食細胞に特に発現する。


ニュースリリース参照
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Par_and_Tox_210617.pdf