2021年12月21日
早稲田大「脳発生に重要な新しい因子発見」
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:早稲田大学

 早稲田大学 人間科学学術院の榊原伸一教授らの研究グループはこのほど、タンパク質の翻訳後修飾の1つである「SUMO化」による新しい脳発生の調節機構を明らかにしたと発表した。

 SUMO化を調節する重要な因子として、SUMOを標的タンパク質から切り離す働きを持つ、「脱SUMO化酵素群」Senps (Senp1-8)が知られている。SUMO化と脱SUMO化の調節サイクルは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患、がん、心臓病など様々な疾患に関与する重要な生命現象だ。しかし、その制御機構には未解明な点が多く、脳の発達に与える影響に関しても不明だった。

 研究グループはSenp5に着目し、これまで未報告だったSenp5の新しいアイソフォーム(Senp5S)を、マウス脳から発見した。そして、このSenp5Sと従来型のSenp5 (Senp5L)がSUMO化と脱SUMO化のバランスを調節することで細胞内のミトコンドリアの形態を制御し、正常な脳の発生を調節することを明らかにした。
 
 今回、大脳皮質発生時におけるSenp5の役割は明らかになったが、成体の脳や他の組織における役割、Senp5の他の標的タンパク質、疾患との関連など、不明は点をまだ多く残っている。これらの謎を解き明かしていくことが、今後の研究課題になると考えられる。SUMO化によるミトコンドリア形態制御機構が今後のさまざまな疾患発症原因の解明に寄与できると期待される。
同研究成果は12月10日、米国のオープンアクセスジャーナル「iScience」のオンライン版に掲載された。

(用語の解説)
◆翻訳後修飾 :タンパク質が翻訳された後に、タンパク質へ付加される修飾のこと。SUMO化、ユビキチン化、リン酸化、糖鎖修飾などがあり、生体内において、タンパク質の機能発現や活性調節、安定化などに関わる。

◆SUMO化  :SUMOはSmall Ubiquitin-related Modifierの略で、ユビキチンと構造が良く似た約100アミノ酸残基からなる低分子量タンパク質。ヒトにはSUMO1-4が存在する。SUMO化は翻訳後修飾の1つで、SUMO分子が標的タンパク質に共有結合することにより、各標的タンパク質の活性調節や安定化、局在変化など様々な細胞内分子機構を調節する。標的タンパク質からSUMOを解離する脱SUMO化はSenps (Senp1-8)が担う。


ニュースリリース参照
https://www.waseda.jp/top/news/77238