2022年05月27日
タンパク質の立体構造解析に新たなモデル提唱
【カテゴリー】:新製品/新技術
【関連企業・団体】:科学技術振興機構

 (国研)量子科学技術研究開発機構の玉田太郎氏をチームリーダーとする 茨城大学、京都大学などの共同研究グループは27日、光合成細菌の光合成電子伝達を担う高電位鉄イオウタンパク質(HiPIP)の高精度全原子結晶構造解析に成功したと発表した。水素原子の観察に優れた中性子の特徴を生かして水素原子の位置を精密に決定し、タンパク質の立体構造形成に大きく影響するペプチド結合の平面構造について新たな構造モデルを提唱した。

 生命活動の中心的役割を担うタンパク質は、数十から数万のアミノ酸がペプチド結合により鎖状につながった分子。これまで一般にペプチド結合は平面構造が最も安定であり、タンパク質分子中のペプチド結合もすべて同じ平面構造であるとの仮定の下で、タンパク質の構造が議論されてきたが、その仮定を実際に確かめた研究例はなかった。タンパク質分子を構成する原子の約半分が水素原子のため、タンパク質の構造を決定する際に主に用いられるX線結晶構造解析という手法だけでは、高い精度で観測することができないためだった。

 研究グループは今回、水素原子を直接観察できる中性子結晶構造解析という手法に着目した。この解析を行うためには、極めて高品質かつ、通常X線結晶構造解析で用いられるサイズの約1万倍という大きな結晶試料を作成することが必要だが、これらの課題を克服し、水素原子を直接観測することに成功した。
 
 その結果、ペプチド結合はすべて同じ平面構造を取るという仮定に基づいた従来モデルを用いることなく、HiPIPの全原子構造を1.2Å(オングストローム)分解能という極めて高い解像度で決定することに成功した。その結果、ペプチド結合は周囲の環境によって多様な構造をしていることを世界で初めて明らかにし、ペプチド結合の新たなモデルを提唱した。

 今回明らかにしたペプチド結合の構造についての知見は、電子伝達機能などタンパク質の機能発現のメカニズムを理解する上で重要となる。同研究で得られた知見が、医学、薬学、工学分野に幅広く応用されることが期待できる。同研究成果は、2022年5月21日に、科学誌「Science Advances」のオンライン版に掲載された。

ニュースリリース
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