2022年07月05日
名大、上空の電子乱れで地震・津波を早く検知可能
【カテゴリー】:新製品/新技術
【関連企業・団体】:名古屋大学

 大規模な火山噴火や地震、津波の際、上空の高度80~1000キロの電離層を構成する電子が大規模に乱れる現象「擾乱(じょうらん)」が起こることが知られている。1月の南太平洋トンガ沖の海底火山噴火で、電子数が通常より30~50%減る「電離層ホール」が生じ、火山上空から半径1500キロ以上の領域で半日以上続いていたことを、名古屋大学宇宙地球環境研究所の新堀淳樹特任助教(超高層大気物理学)らが確認した。津波の早期検知につながる研究成果という。

 新堀氏らの研究グループは、まず全地球測位システム(GPS)や気象衛星ひまわり、観測用レーダーなどのデータを解析した。その結果、噴火の約20分後には電離層で擾乱が生じ、同心円状に地球全体へ広がっていた。火山に近いオーストラリア付近で計測された擾乱は、約6800キロ離れた日本へ、噴火で生じた気圧波よりも3時間早く到達していた。

 大気中を垂直な板のようになって伝わる気圧波の速度は、音速に近い毎秒300メートルなのに対して、擾乱は南極から北極方向へ弧を描くように伸びる磁力線に沿って伝わり、毎秒600~1000キロと大幅に速かった。

 東日本大震災を引き起こした2011年の東北地方太平洋沖地震では、震源域の上空から半径100~150キロの領域で、約40分間にわたり電子が30%程度減少した。昨年8月の海底火山・福徳岡ノ場(鹿児島県)の噴火でも観測された。

 新堀氏によると、電離層擾乱の大きさと地震や津波の規模は比例関係があるという研究結果が報告されている。海外の研究を基に、22年1月に発生したトンガ噴火の電離層擾乱データから津波の高さを計算したところ0・6メートル程度となり、日本の検潮所で観測された潮位変化と同程度と推定された。「観測対象が数千キロの遠方の場合、気圧波の観測より3~5時間程度早く観測できる可能性があり、解析システムが確立されれば、津波アラート(警報)への応用も可能だ」という。