2023年01月04日
年頭所感 経済産業省 製造産業局 素材産業課長 吉村 一元
【カテゴリー】:行政/団体
【関連企業・団体】:経済産業省
吉村一元課長

 令和5年の新年を迎え、謹んでお喜び申し上げます。また、平素より経済産業行政に対する深いご理解と格別のご支援を賜り、厚く御礼申し上げます。

 昨年は、ワクチン接種の拡大等によりコロナ禍から徐々に経済活動が回復しつつあった中、ロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まり、これを背景とした国際的な原油・物価高騰や歴史的な円安など、息つく暇もなく新たな危機に直面することになりました。特に我が国の製造業は、半導体をはじめとした部素材の供給途絶やエネルギー価格の高騰など、様々な面で引き続き影響を受けておられると承知しています。

 また、昨年は、安全保障の裾野が経済分野へ急速に拡大する中で、国家・国民の安全を経済面から確保することも喫緊の課題となっています。昨年5月に成立した経済安全保障推進法に基づき、我が国では日本の経済構造の自律性を向上させることと、技術優位性を高めて日本の不可欠性を得ることを目指し、様々な施策に取り組んでいます。

 例えば、昨年、政府は半導体、航空機部素材等の 11物資を特定重要物資として指定しました。
 これらは広く国民生活・経済活動に用いられ、一旦供給が途絶すると経済に重大な影響を与える恐れのある物資です。これらを含め、経済安全保障の観点からも我が国のものづくり産業基盤が果たす役割は極めて大きいと考えています。特に半導体に関係するものについては、先日成立した補正予算において約1兆円を盛り込み、半導体およびその原料、製造地等の関連サプライチェーン強靭化のための支援として 3,000 億円以上の措置を講じております。特定重要物資の安定供給の確保に資する民間企業の設備投資や研究開発の取組を後押ししてまいります。

 脱炭素社会の実現に向け、日本の経済・社会、産業構造のグリーン・トランスフォーメーション、GXを進めます。GX実行会議のとりまとめを踏まえ、安定供給を大前提に、再生可能エネルギーや原子力といった脱炭素エネルギーを将来にわたる選択肢として強化するためのあらゆる方策を講じてまいります。2050 年カーボンニュートラルという野心的な目標を変革の好機として捉え、成長へとつなげていくことが必要です。

 素材産業は、自動車や電機電子、医薬品・消費財、建設資材など、我々の身の回りにあるありとあらゆる製品の素材を供給することで社会経済を下支えする非常に重要な産業であり、また、これら素材産業が生み出す多種多様な素材は、それ自体が日本の競争力の源泉ともいえます。他方で、装置産業でもある素材産業は、生産プロセスにおいて大量の電気や熱を消費する「エネルギー多消費産業」でもあります。

 我が国のCO2排出量の約 1/4 を占める素材産業は、“Hard-to-abate”、すなわち排出削減が困難なセクターと言われているように、GXの実現は容易ではありません。従来とは全く異なる生産プロセス等の実現に挑戦する民間を後押しすべく、規制・支援一体型の投資促進策を講じてまいります。

 これまでのグリーンイノベーション基金による研究開発支援や、石炭火力自家発電等の脱炭素化に向けた調査支援などに加え、今後10 年間で 150 兆円超の官民の投資を実現するべく、ロードマップに基づいて、GX経済移行債を活用した 20 兆円規模の大胆な先行投資支援や、カーボンプライシングの導入について方針を予め示すこと等を通じて、予見可能性を高め、民間投資を後押しします。

 昨年2月に発表した「GXリーグ基本構想」には、既に日本の CO2 排出量の4割以上を占める500 社以上の企業より参加表明を頂きました。本年は、GX リーグの活動を発展させ、GX 経済移行債の発行や排出権取引の枠組みを含む「成長指向型カーボンプライシング構想」の検討を一層進めてまいります。

 これらのカーボンニュートラルに向けた取組は、もはや経済成長の制約ではなく、新たなビジネスチャンスにつながる成長戦略そのものです。革新的な技術開発を通じ、日本の素材産業がこれまで以上に国内外の産業界全体に貢献する産業となっていくことを期待しています。

 さらに、製造業の競争力強化を図る上で、サプライチェーン全体での取引適正化や、取引条件の改善も重要な課題です。昨年も、3月と9月を価格交渉促進月間と設定し、取引環境の改善に向けた取組の普及・啓発を進めるとともに、業界緊急調査として、ロシア産石炭の依存度が高く輸入禁止の影響が懸念される関係業界のコスト上昇分の転嫁状況を調査いただきました。サプライチェーン全体の共存共栄を目指す「パートナーシップ構築宣言」については、大企業での更なる拡大と実効性の確保に取り組みます。

 また、経済産業省は、三陸・常磐地域の水産業等の本格的な復興に向けて、昨年末、官民連携の枠組みである「魅力発見!三陸・常磐ものネットワーク」を立ち上げました。このネットワークでは、産業界、自治体、政府関係機関等から広く参加を募り、水産物等の売り手と買い手を繋げることで、「三陸・常磐もの」の魅力を発信し、消費拡大を図ります。産業界の皆様におかれましては、ぜひネットワークへの積極的な協力・参加をお願いいたします。

 新型コロナウイルスの感染拡大についてはまだまだ注視が必要な状況ではありますが、経済産業省としては、これまでに述べたような様々な施策を総動員し、産業界の皆様とも連携しながら、素材産業の成長のために全力を尽くしていく所存です。新たな変革の必要な時代に、是非皆様のお力をお借りしたいと思います。そして、この新しい時代を迎えるにあたって、皆様の御健康と御多幸を、そして素材産業の更なる発展を祈念いたしまして、新年の御挨拶とさせていただきます。
 
https://www.chem-t.com/fax/images/tmp_file2_1672798647.pdf