2023年06月09日
九大、神経突起の刈り込み制御 シナプス解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:九州大学

 九州大学大学院 医学研究院の今井猛教授らの研究グループは8日、発達期に神経細胞の樹状突起刈り込みを制御する「シナプス競合」のメカニズムを明らかにしたと発表した。

 哺乳類の神経回路では、発達初期に回路接続(シナプス)が過剰につくられるが、その後、シナプスからの入力に応じてそれらが再編成され、精緻な回路が作られる。再編成の過程では、必要な神経突起やシナプスを作りさらに強化するが、不要なものを除去することも重要となる。
 
 例えば、マウス嗅球の僧帽細胞は、発達初期には複数の樹状突起を伸ばしており、複数の嗅覚受容体(においセンサー)からの情報が混ざって入力される。やがて樹状突起を刈り込み1本だけにするため、最終的には単一の嗅覚受容体の情報だけを受け取るようになる。シナプス除去は、異なるシナプスが互いに競合することで生じると考えられてきたが、どのようして競合し、勝者と敗者が決まるのかは長く不明だった。
 
 研究グループは、僧帽細胞をモデルに研究を行い、僧帽細胞の樹状突起刈り込みには自発神経活動によって放出されるグルタミン酸の入力が必要であることを見出した。グルタミン酸は樹状突起のNMDA 受容体を活性化したのち、刈り込み分子であるRhoA の活性を局所的に低下させる一方で、神経細胞全体にわたってRhoA を活性化させ、残りの樹状突起の刈り込みを促進することを明らかにした。
 
 これにより、RhoA の制御によって、入力を受けたシナプスのみを保護し、それ以外のシナプスを弱めるという、「側方抑制」の仕組みが働いていることが分かった。RhoA は触覚に関わる大脳皮質のバレル皮質4層の神経細胞の樹状突起刈り込みにおいても必須であることがわかり、神経回路の再編成において普遍的なメカニズムであることが示唆された。シナプス除去は発達期に脳の至るところで起こることが知られており、その異常は様々な精神疾患に関わることが示唆された。

(詳細)リリース 
https://www.kyushu-u.ac.jp/f/53062/23_0608_01.pdf