2023年06月09日
熊大、植物に感染する線虫の寄生メカニズム解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:熊本大学

 熊本大学大学院 先端科学研究部の澤進一郎教授らの研究グループはこのほど、世界で初めて植物に感染する線虫の寄生メカニズムの一端が、植物のペプチドホルモン ハイジャックであることを発見したと発表した。
 
 線虫 による農業被害は年間数十兆円にも上るが、これまでは線虫そのものを駆除するしかなく、駆除標的にあたる具体的な物質については未解明だった。今回の成果によって、標的物質が明確になり、ペプチドを利用した新しい防除手法の開発が期待される。

 線虫(ネコブセンチュウ)は、植物の根に寄生し、コブを作って栄養を奪い、農作物を枯らす。
 研究グループは今回、モデル植物のシロイヌナズナを用 いて、線虫が根にコブを形成する際に、シロイヌナズナのペプチドホルモンを利用し、光合成によって作られた糖を葉から根に無理やり移動させていることを発見した。
 
 通常は根への糖輸送シグナルは働いていない。根に線虫が感染すると、まず線虫はその輸送シグナルの担い手である CLEペプチドホルモンを働かせることで、地上部の維管束で糖のトランスポーターを誘導する。すると糖は根に運ばれる。つまり、線虫 はコブの形成に必要なエネルギー(糖)を得るために、植物の CLEペプチドホルモン伝達をハイジャックしていることになる。

 土壌の線虫 を死滅させる方法としては、現在は土壌燻蒸剤の散布が効果的だが、農業従事者への負担や環境への影響から、燻蒸剤 によらない防除法が求められている。今回の研究成果により、CLEペプチドと競争的、受容体に結合する物質(アンタゴニスト)を合成 し、土壌に撒くことで、根のコブによる被害を抑 えることができると考えられる。研究グループは今後、これらを試みる予定。また、この仕組みをブロックするような品種改良を行い、線虫に強い作物を作る計画だ。この成果をきっかけとして、農業分野にイノベーションをもたらすとはりきっている。同研究成果 は6月2日に科学雑誌 「Science Advances」に掲載された。

<用語の解説>
◆シロイヌナズナ:アブラナ科の一年草(学名:Arabidopsis thaliana)。植物体のサイズが小さい、世代間隔が短い、遺伝子導入が容易などの理由からモデル植物として幅広く利用されている。