2023年06月21日
九大、キネシン生体分子モーターの無細胞合成に成功
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:九州大学

 九州大学芸術工学部の井上大介助教をはじめ北海道大学、京都大学大学などの研究グループは、生体由来の微小なモーターであるキネシンを試験管内で合成することに成功したと発表した。

 キネシン生体分子モーターは、アデノシン三リン酸(ATP)の化学エネルギーを高効率に運動に変えることができ、数十ナノメートルという小さなサイズにも関わらず、高い出力(一般的な電磁モーターの20倍程度)を発揮する優れたタンパク質。細胞内の微小管細胞骨格に沿って移動しながら、様々な物質を輸送する、細胞内の物流を担うタンパク質ともいえる。

 これまで、キネシンは遺伝子組み換え大腸菌を用いて作る方法が主流だったが、バイオセーフティの認証や専用設備・装置、熟練されたタンパク質精製スキルが必要であり、同じ品質・量で安定して得ることが困難だった。そのため、生物学専門の研究機関以外で、キネシンを獲得することが難しく、キネシンを幅広い研究分野で利用することに制限があった。

 今回、研究グループは、コムギの胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質発現系から、大腸菌のような遺伝子組み換え生物を用いずに、キネシンを試験管内で合成することに成功した。従来の遺伝子組み換え大腸菌を用いて作ったものよりも高性能であることも明らかとなった。また、キネシンの遺伝子テンプレートをPCRにより編集し、合成キネシンの構造と機能を簡単に改変することにも成功した。
 同究成果は6月16日にアメリカ化学会発行「 ACS Synthetic Biology」誌に掲載された。

<用語の解説>
◆生体分子モーター: 数十ナノメートル程度のタンパク質で、2つの微小管結合部位を有する。生体のエネルギー通貨であるアデノシン三リン酸(ATP)を消費して、2つの微小管結合部位を交互に繰り出すことで、微小管上を2足歩行する。

(詳細)
https://www.kyushu-u.ac.jp/f/53221/23_0619_01.pdf