2023年06月26日
九大、「記憶恐怖や不安感じる」仕組み解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:九州大学

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、戦争や災害、犯罪、事故など、生命を脅かすような危険な出来事の目撃や経験(トラウマ)によって引き起こされる精神疾患の一種。この患者は、フラッシュバック (記憶が突然よみがえる) やネガティブな思考・感情などにより、日常生活が大きく制約される。研究は1980年に米国でベトナム戦争帰還兵を対象に始まったが、そのメカニズムは今も不明で、有効な薬物療法も見つかっていない。

 九州大学医学部の神野尚三教授(生命基礎医学)らの研究グループは、実際に受けたトラウマとは異なる (類似した) 状況に対して恐怖や不安を感じる「恐怖記憶の汎化 」という現象に着目した。
 
 恐怖記憶が起きる場合、オリゴデンドロサイトと呼ばれるグリア細胞が減少し、ミエリンの機能が低下していることを発見した。さらに、特定の抑制性ニューロンの活動を制御する化学遺伝学の手法を用いて、ミエリンの機能を回復させると、恐怖記憶の汎化が抑制され、PTSDの症状が改善する可能性があることもつかんだ。
 
 21世紀は難民の時代とも言われ、現在も世界中で戦争が続いている。また、地震や気候変動に伴う災害のリスクも高まっており、PTSDの患者の増加が懸念されている。今回の研究によって、海馬のミエリンの機能を回復させることで恐怖記憶の汎化が抑制されるメカニズムが明らかになった。今後、PTSDの新たな薬物療法の開発につながることが期待される。
 本研究成果は、米国神経精神薬理学会誌「Neuropsychopharmacology」(6月5日)に掲載された。

<用語の解説>  
◆オリゴデンドロサイトとミエリン :
 オリゴデンドロサイトは、ニューロンの代謝や機能の調節に関わるグリア細胞の一種。ミエリンは同細胞によって形成され、ニューロンの出力線維 (軸索) を包み、情報伝達の速度を高める機能を有する。

ニュースリリース
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/944