2024年01月09日
理研・北大、光異性化の「ファントム」解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:理化学研究所

 理化学研究所と北海道大学の共同研究グループは9日、光化学の分野で半世紀にわたって謎だった、光異性化の「ファントム状態」を観測し、その構造解明に成功したと発表した。今後、分子の遷移状態での構造の解明や、それによって得られる反応経路の理解を通じて、化学反応の制御・効率化に貢献すると期待される。

 化学反応では、化学結合の開裂や生成に伴って分子の構造が変化し、新しい物質が生まれる。
 分子が光を吸収して二重結合が回転する「シスートランス光異性化反応」では、二重結合周りの回転が起きる途中に、一瞬だけ二重結合が切れて垂直構造をとる状態が現れると予想されてきた。だが、その存在の有無は長い間謎で「ファントム状態(幽霊状態)」と呼ばれていた。

 今回、研究グループは、光異性化を起こす最も典型的な分子であるスチルベンの誘導体に着目し、理研で開発したフェムト秒(フェムト秒は 1,000 兆分の 1 秒)で進む分子の構造変化を追跡できる、紫外共鳴フェムト秒誘導ラマン分光法を用いてこのファントム状態を観測することに成功し、最先端の量子化学計算と組み合わせることでその存在と構造を確定した。
 同研究は、科学雑誌「Nature Chemistry」オンライン版(1月5日付)に掲載された。

<用語の解説>
◆スチルベン:中央に炭素原子間の二重結合を持ち、それぞれの炭素原子に水素原子とフェニル基が一つずつ結合した構造をもつ化合物。フェニル基はベンゼンから水素1原子を除いた残基が置換基になったもの。二重結合に対してフェニル基が同じ側にある配置をシス型、反対側にある配置をトランス型と呼ぶ。スチルベンに紫外光を照射すると、システム型からトランス型へ、またトランス型からシス型へというように、両方向に異性化反応が起こることが知られている。

(詳細)
https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/240109_pr.pdf