2026年03月30日
九大、メダカの育ちが「生まれ」に変わるとき
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:九州大学

 九州大学大学院の勝村啓史准教授らの研究グループは、香川県の野生メダカと、日本各地に由来するメダカ野生系統を用いて、腸の長さの季節変化と地理的変異を解析した。その結果、祖先的な集団では育った環境に応じて腸の長さが変わるのに対し、派生的な集団ではその変化の幅を超えた“極端に長い腸”が、生まれつき備わっていることが分かった。

 この「育ち」が「生まれ」に変わる過程を分子レベルで調べたところ、二つの段階が明らかになった。まず、腸の長さの季節的な変化(可塑性)は、Plxnb3(神経突起の伸長を抑制するタンパク質をコードする遺伝子)の上流領域におけるDNAメチル化の季節変動と相関しており、この領域を欠失させると、腸の可塑性が失われた。
 次に、この可塑性が自然に失われた北日本メダカのNJPN1では、Ppp3r1近傍にもともと存在していた遺伝的変異が選択され、極端に長い腸が固定されていた。分子進化解析から、Plxnb3上流領域のCpG部位が減少して可塑性が失われた後に、Ppp3r1の変異が広がったことが示唆された。


 今回研究で示された重要な点は、一見すると環境によって長くなった腸が、そのまま子孫に受け継がれたかのように見える、このラマルク的な現象も、ダーウィンの自然選択と木村資生の中立進化の枠組みで説明できる点だ。環境に応じた柔軟な変化を可能にしていたエピジェネティックな仕組みが失われ、その後、集団にもともとあった遺伝的変異から有利なものが選ばれた。これが、今回研究が示す「可塑性主導進化」のメカニズムだ。

 この発見は、エピジェネティクスと進化生物学を橋渡しし、気候変動下における生物の適応進化を理解するための新たな視点も提供する。
同研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に2026年3月26日に掲載された。