流通科学大学 副学長

弘岡 正明

M.HIROOKA

化学技術の新パラダイムとタイミング


ケムネット東京のスタート、心からお祝い申し上げます。インターネットの普及が劇的に進み、今まさにそのタイミングにあると思いますので、時宜を得た出発だと敬服いたしてb閧ワす。

さて、2000年に向けてようやく経済の回復のきざしが見えてきたことはまことに喜ばしいことですが、産業界はまだ十分な自信がないままに、疑心暗鬼といったところでしょうか。なぜこのような長い不況の底流が10年近くも続いたのかを考えると、そこにはコンドラチェフの長期波動が見えてきます。1960年代からの30年間が技術革新波としては、その上昇期であり、1990年からその下降期に入ったと見られるわけです。この間、化学工業は石油化学の大きな技術革新時代を十分満喫してきたわけですが、これからは新しい次なるパラダイムへ進化しなければならないタイミングにあります。

技術革新のパラダイムは近年約60年のタイムスパンを有していることがわかってきました。その前半の技術開発の時代は、経済的には潜在期間であり、企業の収益には貢献しないが、その間に次なる市場展開を事前に察知して、ベンチャー的事業展開を始めるタイミングがあります。21世紀の初頭を飾る次なる技術革新パラダイムの大きな潮流としては、すでにマルチメディアの技術革新がいよいよ本格的な展開を始めたところでありますが、化学企業としては、従来の石油化学を相変わらず主要な柱として持続して行く中で、次なる新しい息吹を現実のものとして取り込んでゆかなければならない技術軌道があります。その重要なひとつは精密重合のパラダイムであり、通産省の精密重合プロジェクトがすでに成果を挙げつつあるところです。その一環として、生体の精緻な機作をうまく取り込んだ新しい高分子の合成とその活用が重要と思われます。自己組織化のメカニズムは大きな夢がありますし、天然高分子と同様な循環系を作る高分子サイクルも期待したいところです。導電性高分子の延長上に精密重合による超電導の夢も現実に近づいているように思います。これから地球環境問題が次第に深刻になる中で、化学技術が主導的役割を果たさなければならないので、その責任も重いわけです。最も喫緊の課題は再生可能なエネルギーを石油に代わる条件で作らなければならない。本多・藤嶋効果の延長上に、また生体機作に近い化学の力で水素生産できる技術が求められているわけです。化学技術が最も必要な時代となりつつあるという自覚を持ちたいものです。