「高機能・高付加価値化でPE事業の中身を改革」

旭化成ポリエチレン事業部長

岸本泰志 氏

 最近、ポリエチレン企業の間で、汎用品種から高機能・高付加価値型品種へのウエートシフトを重点課題に掲げてその実現に必死に取り組むところが急速に増えてきた。これまでのように汎用品種の成長に依存していく限り、厳しい国際生存競争を生き抜くのは無理との認識が一段と強まってきたことによる。比較的早い時期にそうした方向に舵を大きく切り直していたところも、環境の予想以上の悪化を睨んで高機能・高付加価値品種の構成比率の拡大に一段と拍車をかけている。市場関係者の多くがその1つに挙げる旭化成のポリエチレン事業部の岸本泰志事業部長に戦略品種の育成の現状と課題を聞いてみた。

−−現在育成中の高機能・高付加価値型品種にはどういうものがありますか。

 代表的なものを挙げれば、1つはメタロセンポリエチレン「クレオレックス」であり、もうひとつは超高分子量ポリエチレン「サンファイン」ということになる。
 このうちの「クレオレックス」は、当社独自のスラリー重合技術とダウケミカルのインサイト技術の組み合わせによる新タイプの高密度ポリエチレンで、既存のメタロセンポリエチレンにないいくつかの特徴を持っている。
 例えば、高分子領域ほどコモノマーが多く入り分子量分布が極めて適切な範囲となっているので、メタロセンポリエチレン特有の物性をそのまま維持しながら、同時に、既存のメタロセンポリエチレンにない耐衝撃性、対環境応力性(ESCR)、クリープ性や優れた成形加工性も発揮する、といった強みを持っている。

−−「クレオレックス」の現在の主な市場としてはどんなものが挙げられますか。

 現時点で最も消化量が多いのは、高強度で耐熱性に優れた給湯用架橋パイプの分野だ。次いで、高強度で耐久性と柔軟性に富んだ多層パイプや、ESCRと強度を生かしての中空成形品などの分野が挙げられる。
 また、この9月からは多層フィルム分野にも進出できている。優れた強度と耐熱性を持ち、しかもゲルが極めて少ない点がフィルムメーカーやコンバーターの皆さんに評価されている。

−−当面の製造・販売目標はどう設定していますか。

 あくまでも、この樹脂の特徴や持ち味をフルに生かせる分野に的を絞って市場開拓していきたい。せっかく優れた機能や高い付加価値を持っているのだから、それに相応しいきちんとした価格で伸ばしていくことが何より大切と考える。背伸びして量を追求することは断じてしない。
 「クレオレックス」を生産しているプラントの能力は、既存の高密度ポリエチレンとの並産で年5万tだが、無理して早期フル稼働を目指すべきでないと考える。あせらず、3〜4年後のフル稼働を目指していきたい。

−−一方の超高分子量ポリエチレンの現在の市場開拓状況はいかがですか。

 「サンファインUH」「サンファインSH」「サンファインAQ」−−などいずれの品種も順調に独自の用途を開拓できつつある。耐磨耗性、耐衝撃性、耐薬品性、剛性、焼結性--などが評価されて、リチウムイオン電池や鉛電池のバッテリーセパレータ、IC部品の搬送シート、インク吸収体、工業・産業部材など幅広い分野で需要が増えている。

−−この樹脂の育成に当たってはどのような戦略を展開していきますか。

 基本思想は「クレオレックス」と同じだ。あくまでも、当社特有の市場の開拓に徹していく。もともと超高分子量ポリエチレンは、技術力を生かして新しい独自の用途を切り開いていける性格のものであり、しかもさいわいに世界でも企業化メーカーの数が少ない。  厳しい国際競争を生き抜いていくには、この種のポリマーの思い切った育成が不可欠であり、また、市場が強く求める材料でもあるので大切に育てていきたい。

−−さらに新しいポリマーを戦列に加えていくことにもなりますか。

 ひとつのターゲットは、ナノコンパウンドの開発だ。高付加価値型の新しい市場・用途を開拓していくには、ポリエチレン系のナノコンポジットの開発がどうしても必要だ。それに成功すれば、フィルム分野にせよブロー分野にせよ、まだまだ新しい市場が切り開ける。ぜひ近い時期に独自の技術を確立したい。  また、新触媒技術によるポリエチレンの新たな共重合樹脂の開発も重要テーマの1つと考えている。

−−つまりは、ポリエチレン事業部門の収益の多くを「クレオレックス」や「サンファイン」やナノコポリマーといった高機能・高付加価値品種で確保していくということですか。

 狙いは、厳しい国際競争の中でも生き抜いていけるだけの強靭な体質の構築であり、その目的を果たすために当社特有の高機能・高付加価値型品種の開発と育成に多くのエネルギーを投入していくということだ。事業の中身を得意の技術力を生かして大きく変えていきたい。競争優位の要素技術は十分に蓄積できている。この強みをフルに発揮していけば自ずと新しい時代に適合していける強力な事業基盤を構築できるはずだ。