「化学行政これからのあり方」ついて

 

経済産業省

製造産業局化学課長

宮城 勉 氏

T.MIYAGI

「日本の化学産業は、皆さんが言う以上に競争力があるのではないだろうか」と、宮城さん。経済産業省がスタートした1月6日付で化学課長に就任したばかり。省内では幅広くいろんなコースを歩いてきた。直前までは内閣官房内閣審議官として、各省庁のキャリアを集め「日本新生プラン」づくりに腕をふるった。「行政官は人に会わないとだめ。会って話せば理解し合えるし人は動いてくれる」が持論のようで、“真剣勝負は楽しい”というあたりは、いかにも行動派。自身のキャラクターをきくと、「気はやさしくて力持ち、と書いておいてください」といったあと、あわてて「うそうそ、冗談」と、大きな声で笑った。昭和52年一橋大学経済学部卒。 

━化学課長に就任して、どんな感想を?

 化学業界の皆さん、立派によくやっておられる。それには2つの意味があって、1つは、化学産業というのは、やはり日本の産業界を下から支えているのだという点だ。いま、自動車とか家電、電子といった製造業が世界の中でつよい競争力をもっているといわれているが、化学産業が素材面で支えているからだといっていいと思う。もう1つは、業界の皆さんがいわれるより日本の化学業界の競争力はあるのではないかという点だ。確かに収益力などに問題はあるだろう。だがフトコロは思っていた以上に深いし、皆さんよくやっておられる。自分自身を過少評価というか、少し卑下しているようにみえる。そんな必要は全然ないと思う。

━でも課題は多いし、アライアンスもこれからです。

 確かにそうだし、これから大事な問題だ。アライアンスなどというと、これまで役所は、とかく“側面支援”の姿勢をとってきた。しかし私はそうではなく、全面支援であるべきだと考えている。できることがあればどんな小さなことでもお手伝いしていくつもりだ。
 アライアンスは、よく考えた上で根っこまでドラスチックにやった方がいい。企業にしてみれば大変だろうが、私としてもできるかぎりお役にたちたい、できれば連携の“かなめ”になりたいと思っている。

━これまでの行政のやり方と違いますね。

 原課行政のポイントはトップとの会話にあると思う。だから私の方から足を運ぶ。企業間の話し合いだけで解決できない問題だってあるに違いない。だから、そこは企業だけでなく、役所もリスク・テイキングする。そのくらいの気持になっで一緒に解決していくようにしたい。
 役所には特別権限があるわけではないが、人を動かすことはできる。政策を考えたり、予算をつけたりだけが役所の仕事ではない。

—これまで通産省ではどんなコースを?

 直近のところからいうと、ここへくるまでは内閣官房(審議官)にいた。決った仕事をするのではなく、そのときどきのアドホックなテーマについて、関係各省庁と話し合い、意見調整したり、方針をまとめていくのが私の仕事だった。
 内閣官房に就いたのが小渕内閣当時の平成9年、最初の仕事がCOP3への対応で、通産省はすでに自主行動計画をまとめていたが、他の省庁はそうでもなかった。オール・ジャパンとしての意見のすり合わせをするのに苦労した。その後も雇用対策、景気対策、リサイクルなど次々に重要テーマが出てきた。ときには全省庁を対象にヒアリングをしてまとめたりした。そして例のミレニアム、日本新生プラン。森内閣に代っていたが、IT、ゲノム、リサイクル対策などに予算をつける仕事をやった。

━環境やリサイクル問題はこれからも重要です。化学業界の取り組みをどうみていますか。

 よくやっておられる。ただ、世の中にもっとよく知らしめるべきではないか。それと、これだけ市民生活の中に深く入り込むと、マーケットの成長にとっても対策は不可欠になる。企業としてもビジネス・ベースで考えていくことが大切だ。

━西出前課長からはどんな引き継ぎを?

 西出さんはいい仕事をされた。ことにアセアンとの政策対話は、役所が下地を整えていくべき分野として重要だ。今後は行政のスコープもアジアに広げていかないといけない。国内の業況を通常みているのと同じレベルまで海外に広げていくことが必要になってくるだろう。

━省内でいろんなコースを歩いてこられたことが、今後の化学行政に生かせますか。

 そうしたいと思っているところだ。内閣官房の前は機情局情報処理振興課長、その前はイタリア大使館(参事官)、産政局産業組織室長、中小企業庁総務課(法令審査委員)など、いろいろなコースを歩いてきた。産織室にいた頃は独禁法の再販制度見直しや商法改正の問題があった。ただあの頃と今とでは時代も全然違う。商法改正をめぐって最近は「金庫株」解禁の話が出ているが、当時は全然考えられもしなかったことだ。中小企業庁では「大店法」の裏対策のようなことをやった。
 私は昭和52年の通産省入省以来、通産省だけでなく他省庁の人たちともよく会い、ときには激しい議論をしたりしてきた。今、思うのは、そのときは苦しくても、あとで考えると楽しかったということだ。だから真剣勝負というのは、実は楽しいものだ、それによって相手を理解し合えるし人は動いてくれる。行政の原点はここにあるのではないかと思っている。 

2001.02.02掲載