グローバル化への戦略と課題

 

三井化学 社長

中西 宏幸 氏

H.NAKANISHI

「欧米では再編、アライアンスがダイナミックに進んでいる。アジアも動きが活発だ。日本は追い抜かれてしまう」と、中西社長。もたもたしてはいられない、と言わんばかりだ。
 しかし、三井化学自体はすでに目標も路線も明確。
「大阪石化株を100%もったことで、東西センターの最適生産が可能になり、基礎部分の基盤が強化された」「塩ビやスチレン系樹脂の整理も一段落した」と歯切れがいい。三井石油化学時代から経営計画畑を歩いてきた。岩国大竹工場長も経験している。キャリアに不足はなさそうだ。

━課題の多い石化業界ですが、現状をどう見ますか。

欧米やアジアなどの動きをみると、欧米ではアライアンス、再編のスピードが早く、しかもダイナミックに進んでいる。
 それに比べると日本は、再編の動きは出ているが、単一事業ごとの再編に止まり、スピードも遅い。
 一方アジアは各国とも石油化学をステータス・インダストリーとして期待し、相当な資金や人を注ぎ込んでいる。韓国、台湾、シンガポール、タイ、インドネシア、中国みなしかりだ。
 いま、そういった国と日本との力の差が縮まり、もはや部分的には日本を追い越そうという勢いだ。奇美実業のABSだけではない。韓国のエチレンにしても500万トンと、日本に迫りつつある。中国にしても、輸入ポジションにあるとはいえ、全体のマーケットは日本を追い越している。
 その中で日本はどうしたらいいか、どうあるべきかを考えないといけない。

━日本はこれからどう考えたらいいと。

 まず日本とかアジアという国境の概念を捨ててかからないといけない。日本を含めたアジア全体を1つのマーケットとみるということだ。
 つまり、国内マーケットだけを前提に考えるのではなく、アジア全体をみて、その中でどうあるべきかを考えていくことだと思う。その点でいえば、やはり日本はより先端的な技術、品質、用途をもった分野にシフトしていくことが大事ではないか。
 そしてアジア全体に立脚して展開していく製品と、国内でやる製品を分けて考えないといけない。国内で再編、アライアンスを考えていくときも、アジア全体がどうかを考えないと間違いを起こす。どういう絵が描けるかはそれこそ各社の事情によるが、いずれにしても小手先のものではだめだ。スピードももっと上げないといけない。でないと、日本のマーケットでも生き残りは難しくなる。

━三井化学自体は事業基盤も相当整備されてきました。

 欧米の企業を見ると、いろいろな潮流がある。単一の製品で世界各地に拠点をもち、圧倒的な強さを発揮しようとしているところもあれば、ケミカルインダストリーは20世紀で終わりとばかり、ライフサイエンス分野に全面的に転身を図っている企業、あるいは“打順”を組み換え、新しい4番打者を育てようと、力を入れている企業もある。当社はそうした中でどういう道を選択するかだが、私は従来培ってきた打線はキープしながら、一人一人の打者をより強くしていくことが急務と思っている。ただ、この3−4年、試合に出られず、ベンチに控えたままの選手が何人かいる。そういう選手は若い人に交替してもらう必要が出てきそうだ。

━塩ビ事業はベンチから消えるのですか。もう1つ、スチレンもあります。

 塩ビはご承知のように名古屋、大阪の電解設備を停め、VCMも生産をやめて全量東ソーに委託している。PVCは大洋塩ビにおける事業として残っているが、東ソー主体の事業に組み換える。これからは東ソーの圧倒的な力のお世話になる。整理は終わったのかな、というところだ。
 スチレン事業も、ポリスチレンは日本ポリスチレン、ABS樹脂は日本A&Lと、一応事業統合は終わっている。でもこのままゆうゆうとやっていけるのかどうかは疑問だ。
 そこへいくとスチレンモノマーは頭が痛い。何とかしたいと思っている。

━大阪石油化学を100%子会社化されます。これからどう運営していきますか。

 大阪石化の親会社だった宇部興産や鐘淵化学などの各社とは、当社の株と交換してもらい、大阪石化を100%の子会社にすることにした。各社のご協力に感謝している。
 石油化学の根幹はエチレンセンターにあると考えている。これからは東西2センターを一体管理して環境変化に対応したスピーディな運営を行っていく。
 大阪地区では唯一のクラッカーだし、石化の拠点として競争力が発揮できると期待している。
 ただ塩ビがベンチから抜けると、それに代わるエチレン誘導品が必要になる。それをいま考えているところだ。

━海外事業展開は非常にうまくいっていますね。

 そう思う。ナフサクラッカーと連動していないPTA,フェノール、ビスフェノールAなどをタイやインドネシア、シンガポールでやっている。欧米では機能材料事業を展開しているが、いずれも順調に業績をあげている。
 問題はポリエチレンとかポリプロなど当社にとっては得意な汎用樹脂分野を海外でどうやっていくかだ。まず、競争力のあるコストで原料が得られる状況が整わないといけない。これまでも可能性は追求してきたが、まだ決め手がつかめていない。

━中国などまだまだ需要は伸びそうです。

 中国は確かにマーケットはあるし、これからも伸びると思う。しかし、中国の市場をどう考えたらいいのか、中国の国内に立地した方がいいのか、周辺のどこかの国でやった方がいいのか。いずれにせよ単独では難しい。となると、パートナーの問題も出てくる。

━これからの経営で一番大事なことは。

 目先のこともさることながら、3年先、5年先を見て、しっかりした体力をつくっておきたい。内外各社のダイナミックな動きに遅れることなく対応できる体力とスピードを身につけておくことが大事と思う。そして競争に生き残り、総合化学会社として存在感のある会社に育てていきたい。