2020年06月08日
産総研など、高精度「結晶構造解析」自動化
【カテゴリー】:新製品/新技術
【関連企業・団体】:産業技術総合研究所

大学院大学と、産総研 知能研究センターの大西正輝社会知能研究チーム長を中心とする研究グループは、数理最適化の一手法である「ブラックボックス最適化」手法を用いて、物質・材料研究に必要不可欠な粉末X線回折(PXRD)パターンの解析を自動化・高効率化する手法を開発したと発表した。

PXRD法は、物質・材料の機能と性質を支配する結晶構造の情報を得ることができる分析手法の一つ。PXRDの測定結果から結晶構造の情報を得るためには、リートベルト精密化法が広く用いられている。
この方法には本来の目的である結晶構造情報以外にも多くのパラメータが含まれ、それらの調整に大きな労力が必要とされている。

本研究では、このような状況が機械学習におけるハイパーパラメータ最適化(注2)問題と類似していることに着目し、同問題に対して有効なブラックボックス最適化手法をリートベルト精密化法に応用することで、PXRDパターン解析を効率化する手法を開発した。同手法を用いることにより、熟練者を超えるフィッティング精度と解析速度が得られるだけでなく、熟練者がとる典型的な手順では到達できなかった結晶構造の候補を発見することにも成功した。

この研究のアイデアは、解析結果に影響するパラメータが手作業で調整されている解析手法に応用可能であり、さまざまな分野における計測・シミュレーションデータ解析の効率化が期待できる。さらに、人間の思考の癖や思い込みを排除することで新しい解釈が導かれることも期待され、今後の物質・材料研究の加速と物理現象の理解への貢献が期待される。

同研究成果は、英国の学術誌「npj Computational Materials」に6月5日オンライン掲載された。


<用語の解説>
◆ブラックボックス最適化 :数理最適化問題のうち、目的関数や制約条件が解析的に与えられないようなものを、ブラックボックス最適化問題と呼ぶ。ブラックボックス最適化は、機械学習モデルのハイパーパラメータ最適化など、複雑なプログラムやシステムを対象とした実問題で実績がある。ブラックボックス最適化問題を解くためのアルゴリズムをブラックボックス最適化手法と呼び、代表的なものにベイズ最適化などがある。