2020年09月07日
理研、ウイルス遺伝子放出を電子顕微鏡で捕捉
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:理化学研究所

理化学研究所 放射光科学研究センターの米倉功治グループディレクターと岩手大学の共同研究グループは4日、クライオ電子顕微鏡を用いて、リンゴに潜在感染するウイルス(ALSV)の構造と、植物細胞内でウイルス遺伝子が放出される様子を捉えることに成功したと発表した。

ALSVを含む属のウイルスとして初めてその原子構造が明らかになったことで、植物ウイルスが宿主細胞に感染する際に起こるウイルス遺伝子の放出機構のより詳しい理解や、植物ウイルスの抗ウイルス薬開発、植物細胞内に外来遺伝子を送り込む方法への応用につながると期待できる。

植物ウイルスは多くの場合、宿主となる植物細胞の細胞壁表面の傷などを通り宿主細胞内に侵入し、自身のタンパク質合成のためにウイルス遺伝子を放出する。しかし、ウイルスが宿主細胞内でどのようにウイルス遺伝子を放出するのかの詳しい仕組みは明らかではなかった。

今回、共同研究グループは、冷陰極電界放出型の電子銃を備えた新型の国産クライオ電子顕微鏡を用いて、ALSVの原子構造を2.87オングストローム分解能で決定し、同時に自身の遺伝子を放出途中のウイルスのクライオ電子顕微鏡像の取得に成功した。

本研究は、オンライン科学雑誌「Communications Biology」(日本時間9月4日)に掲載される。


<用語の解説>
◆クライオ電子顕微鏡
タンパク質などの生体分子を、水溶液中の生理的な環境に近い状態で、電子顕微鏡で観察するために開発された手法。試料をを液体エタン(約-170℃)中に落下させ急速凍結し、アモルファス(非晶質、ガラス状)な薄い氷に包埋する。これを液体窒素(-196℃)冷却下で、電子顕微鏡観察する。