2021年04月16日
「スギの全国調査」で気候・病原菌組成など解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:東京大学

東京大学 大学院の日浦勉教授をはじめとする東京大学、北海道大学など5機関の研究グループは16日、スギの生態系を調査した結果、生物起源揮発性有機化合物(BVOC)の放出パタンが、地域的によって大きく異なることを発見したと発表した。

このことは、スギの集団が気候だけでなく病原菌組成の影響も受けている可能性を示した。樹木が生育する地域の環境に適応するため、化学的な防御手段をどのように進化させてきたかを探る鍵となり、今後の育種や森林管理の基盤になるとして注目される。

一般に「森の香り」として知られる生物起源の揮発性有機化合物(BVOC)は、さまざまな環境ストレスに対する植物などの抵抗力に大きな役割を果たしており、大量に放出される場合は、周辺の大気環境にも重要な影響を与えると考えられている。だが、地理的規模での物理的環境や生物的環境が放出物質の多様化とどのように関係しているのかについては、ほとんど知られていない。

日浦教授らのグループは今回、遺伝的に異なる全国12集団の天然スギから放出されるBVOCを同一環境下で定量し、テルペン類の組成と量が集団によって大きく異なることを明らかにした。さらにBVOC放出は集団が分布する地域の気候だけでなく、病原菌組成とも密接な関係にあることを見出した。

同グループは、共通圃場で生育するスギの12地域の集団を用いて、葉に蓄積および葉から放出されるテルペン類の多様性を明らかにした。その結果、11種のモノテルペン、6種のセスキテルペン、2種のジテルペンが検出され、放出されるテルペン類が高度に多様化し、地理的に構造化されていることを明らかにした。

今後は全国に植栽されているスギのさまざまな地域系統品種の機能に注目するだけでなく、BVOCを介した樹木と病原菌の相互作用も考慮した育種や管理が気候変動対策としても求められるとしている。


ニュースリリース参照
https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/210416_pr.pdf