2022年10月18日
京大、大洋の東西で異なるマイワシの環境応答
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:京都大学

 世界中の温帯海域に生息するマイワシの個体数は、環境変動に応答して激しく増減することが知られている。その中で、日本近海のように各大洋の西側に生息するマイワシは比較的寒冷な年代に増加するのに対し、東側に生息する個体群は温暖な年代に増加することは大きな謎だった。

 京都大学 人間・環境学研究科の石村豊穂准教授と東京大学大気海洋研究所などの研究チームは17日、日本近海と北米西岸で収集されたマイワシの耳石について、日単位での成長解析に加えて、非常に細かい解像度での安定同位体分析を行った結果、北太平洋の東西の集団間では、初期成長速度、エネルギー消費量、分布水温が大きく異なることを見出したと発表した。
 
 このような東西の対称的な違いは、遠く離れた南アフリカの西岸(大西洋の東側)と南・東岸(インド洋の西側)にいるマイワシ集団の間でも、共通して観察された。さらに、日本近海のマイワシは稚魚期の終わりまでの成長速度が低水温下で高くなるのに対し、北米西岸のマイワシでは高水温下で高くなることが示された。
 
 成長が速い仔稚魚は生残率が高くなるため、このように成長速度の水温応答が逆転していることが、世界の大洋の西側と東側のマイワシ個体数の環境応答の違いを生んでいると考えられる。
 
 こうして多様な環境に適応して生き様を変え、海域により異なる環境応答を示すことが、マイワシの気候変動に対するリスクヘッジになっている可能性がある。従来観測が困難だった海中の仔稚魚の生態を理解することで、様々な水産資源の変動要因が解明されることが期待される。
 本研究成果は22年10月16日付の国際学術誌「Nature Communications」に掲載された。

<用語の解説>
◆ 耳石 :魚類の内耳の中で形成される、炭酸カルシウムを主成分とする結晶。毎日輪紋を刻みながら少しずつ大きくなり、周囲の環境や魚の代謝量によって変化する。輪紋の数を数えることで日齢・年齢を知ることができるため「魚の日記」と言われることもある。

<研究の詳細>
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2022-10/221017_ishimura2-37f1a951cd512e2aa00cbccd68514401.pdf