2023年01月04日
令和5年度 年頭所感 経済産業省 製造産業局 局長 山下隆一
【カテゴリー】:行政/団体
【関連企業・団体】:経済産業省
山下隆一局長

【 令和5年度 年頭所感 】

▽経済産業省 製造産業局 局長 山下隆一

■はじめに
 令和5年の新春を迎え、謹んで御挨拶申し上げます。
 昨年は、ワクチン接種の拡大等によりコロナ禍から徐々に経済活動が回復しつつあった中、ロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まり、これを背景とした国際的な原油・物価高騰や歴史的な円安など、息つく暇もなく新たな危機に直面することになりました。特に我が国の製造業は、半導体をはじめとした部素材の供給途絶やエネルギー価格の高騰など、様々な面で引き続き影響を受けておられると承知しています。

 こうした目の前の情勢変化への対応に加え、中長期的な産業構造の変化を見据えた変革にも取り組んでいくことが求められています。私は、政策の重点は「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」「経済安全保障」の3軸にあると考えています。本年も産業界の皆様と緊密に連携しつつ、この3軸を基礎にしてあらゆる施策を総動員することで、我が国製造業の成長のために全力を尽くしてまいります。

■経済安全保障・防衛力強化
 ロシア・ウクライナ情勢に加え、昨年は北朝鮮によるミサイルの発射が繰り返されるなど、我が国を巡る安全保障環境は戦後最も厳しい状況にあると言っても過言ではありません。昨年11 月の岸田総理からの指示に基づき、国家安全保障戦略を含む防衛3文書の改定により、今後 5年間での防衛力の抜本強化等の方針が示されました。
 
 防衛力強化のためには強い防衛産業が必要不可欠である一方、同産業は利益率や事業見通しの不確実性といった課題を抱えていると認識しています。産業を所管する経済産業省として、産業界の実情を踏まえ、防衛省をはじめとした関係省庁とも連携しながら、防衛産業の強化に向けた取組の具体化に取り組んでまいります。

 また、防衛力を高めることはもとより、安全保障の裾野が経済分野へ急速に拡大する中で、国家・国民の安全を経済面から確保することも喫緊の課題となっています。昨年5月に成立した経済安全保障推進法に基づき、我が国では日本の経済構造の自律性を向上させることと、技術優位性を高めて日本の不可欠性を得ることを目指し、様々な施策に取り組んでいます。

 例えば、昨年、政府は永久磁石や工作機械・産業用ロボット、航空機部素材を含め 11 物資を特定重要物資として指定しました。これらは広く国民生活・経済活動に用いられ、一旦供給が途絶すると経済に重大な影響を与える恐れのある物資です。これらを含め、経済安全保障の観点からも我が国のものづくり産業基盤が果たす役割は極めて大きいと考えています。
 
 このため、先日成立した補正予算においては約1兆円の基金を盛り込み、特定重要物資の安定供給の確保に資する民間企業の設備投資や研究開発の取組を後押ししてまいります。加えて、我が国のものづくりにおける技術的優位性を高め、不可欠性を高めるため、「経済安全保障重要技術育成プログラム」に1,250 億円を積み増し、宇宙・航空分野をはじめとする最先端の重要技術の開発にも取り組んでいきます。

■GX
 昨年 12 月、EU 理事会と欧州議会は炭素国境調整メカニズムに係る設置規則案を暫定合意しました。ロシア・ウクライナ情勢の中でも、脱炭素に向けた議論は進んでいます。我が国としても、2050 年カーボンニュートラルという野心的な目標を変革の好機として捉え、成長へとつなげていくことが必要です。しかしながら、日本全体のCO2排出量の1/3を占める産業部門は、“Hard-to-abate”、すなわち排出削減が困難なセクターと言われているように、GXの実現は容易ではありません。従来とは全く異なる生産プロセス等の実現に挑戦する民間を後押しすべく、規制・支援一体型の投資促進策を講じてまいります。

 既に、脱炭素化に向けた長期にわたる研究開発・社会実装を行う企業等に対して、2 兆円の「グリーンイノベーション(GI)基金」にて大規模かつ継続的な支援を行っており、水素を活用した次世代製鉄プロセスやCO2や廃プラスチックから化学品を合成する製造技術に関するプロジェクト等を進めています。昨年成立した令和4年度第2次補正予算では更に 3,000 億円での拡充を行ったことに加え、令和5年度当初予算案において約 4,500 億円を計上したところであり、今後も必要な支援を行ってまいります。

 昨年2月に発表した「GXリーグ基本構想」には、既に日本の CO2 排出量の 4 割以上を占める約 600 社以上の企業より賛同を頂きました。本年は、GX リーグを稼働させ、GX 経済移行債の発行や排出量取引の枠組みを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」を速やかに実現・実行してまいります。予見可能性を高め、企業が GX に向けた投資をしやすい環境作りに取り組んでまいります。

■DX
 世界的に、データを用いた価値創造の動きが一層加速しています。我が国製造業においても、サプライチェーンに関するデータ等を集約・管理し、AIや量子、デジタルツイン等と組み合わせることや、工場プロセスを形式知化することで、設計・開発、生産管理などの高付加価値化や迅速な経営判断を実現していくことが必要です。デジタル分野を中心に起きているレイヤー化等の産業構造の大きな変化を踏まえ、従来の製品・サービスで勝負するものづくりを越えて、幅広い分野・産業・ビジネスを俯瞰した横割りの視点をもった取り組みを進めることで、競争力を高めることが重要です。

 しかし、欧米諸国と比較すると、DX を含む無形固定資産への投資が進んでおらず、我が国製造業のデジタル競争力は今のところ高い位置にありません。その原因の一つとして、従業員の学び直しへの投資が不足していることが挙げられます。このため、経済産業省は、リスキリング等を通じて、DX に資する人材の育成に取り組んでいます。

 また、個社の取組だけでなく、特に最近では、カーボンフットプリントの把握や人権デューデリジェンスへの対応などにおいて、バリューチェーン全体でのデータ連携の必要性について欧米を中心に議論が進められており、企業の枠を超えたDXも視野に検討を進めていく必要があります。このためには、官民一体での連携が必要であり、経済産業省としては、まずは、例えば、車載用蓄電池などを念頭に、ライフサイクルでの温室効果ガス排出量の算定や、サプライチェーン上におけるリスクを継続評価・低減していく仕組みなどを策定することを目指しています。

 さらに、無形固定資産への投資のみならず、ロボットやドローンなどの先進技術導入による生産性向上や価値創造も重要です。特にドローンについては、昨年12月に改正航空法が施行され、有人地帯での補助者なし目視外飛行が可能になりました。これによりインフラ点検や物流、災害対応といった様々な分野でドローンの利活用が進むことを期待しています。また、2年後に迫った大阪・関西万博において「空飛ぶクルマ」の商用運行を開始することを目指し、政府では制度整備や研究開発を進めています。こうした取組を通じて、我が国の先進的な技術を用いた製品開発への投資にスイッチを入れることを目指します。

■福島
 福島の復興は経済産業省の最重要課題です。福島の復興に向け、経済産業省では、福島浜通りへの企業立地や福島浜通りでの実用化開発への補助金等の手厚い支援策を用意しています。皆様におかれましても、こうした支援策を活用し、福島浜通りへの進出を御検討いただければ幸いです。

 また、経済産業省は、三陸・常磐地域の水産業等の本格的な復興に向けて、昨年末、官民連携の枠組みである「魅力発見!三陸・常磐ものネットワーク」を立ち上げました。このネットワークでは、産業界、自治体、政府関係機関等から広く参加を募り、水産物等の売り手と買い手を繋げることで、「三陸・常磐もの」の魅力を発信し、消費拡大を図ります。産業界の皆様におかれましては、ぜひネットワークへの積極的な協力・参加をお願いいたします。

■おわりに
 DX、GX、経済安全保障といった新しい経済の軸に合わせ、成長につながる投資の形や事業分野の中身も変わっていきます。産業界においても、こうした構造的変化を適確に捉え、新たな投資を含めた経営リソースの活用方策を考えていっていただきたいと思います。我が国においても国内の投資を増やそうという意欲が高まってきており、昨年末に開催された国内投資拡大のための官民フォーラムにおいては、経団連から 2027 年度に 100 兆円の設備投資の見通しが示されたところです。今こそ大規模な設備投資を行い、投資とイノベーションと所得向上の3つの好循環を生み出す好機です。経済産業省としても、民間における投資を促すべく、様々な施策を通じて予見可能性を高め、企業が投資しやすい環境を作っていきたいと考えています。
 最後に、皆様の益々の御発展と、本年が素晴らしい年となることを祈念して、年頭の御挨拶とさせていただきます。

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