2023年05月25日
九大、生物が陸上生活に適応するメカニズム発見
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:九州大学

 生物は進化の過程で海中から陸上へ進出したが、陸上での生活に適応するために様々な変化が必要だったと推測されている。陸上では高濃度の酸素と紫外線により、海中の数千倍の活性酸素が発生する。このため陸上生物はこの活性酸素に対する防御機構を高める必要があったが、どのようなメカニズムでそれを達成したのかは長く不明だった。

 九州大学 生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授らの研究グループは、動物が陸上の高い活性酸素に適応するための進化のメカニズムを新たに発見した。

 活性酸素に対する防御機構には、転写因子( Nrf2 )が重要な役割を果たす。その量はKeap1 というユビキチンリガーゼ(タンパク質)の分解によって巧妙に調節されている。
 
 研究グループは、海中生物が所有する海型Keap1が、進化の過程でゲノム重複によって2つになり、そのうち一方が陸型Keap1として残った結果、高い活性酸素のもとでも生存できるようになったことを突き止めた。
 
 そこで、本来のKeap1(陸型)を、人工的にKeap1(海型)に置き換えた遺伝子改変マウスを作製し、これに太陽光レベルの紫外線を照射したところ、ほとんどが高い活性酸素に耐えられずに死んでしまった。つまり、もし海型 Keap1 から陸型 Keap1 への遺伝子の進化が起こらなければ、ヒトも含めて動物は陸上では生きられなかったことを示している。

 本研究結果は、どのように生物が海から陸への生活に適応したかに関して新たな知見を加えるものとなる。また、活性酸素はがんや老化・加齢性疾患の原因ともなるため、これらの疾患治療への応用が期待できる。本研究成果は米国雑誌「Science Advances」に 2023年5月20日に掲載された。

<用語の解説>
◆ユビキチンリガーゼ:タンパク質の特定の部位にユビキチンと呼ばれる小さなタンパク質を付加する酵素を指す。ユビキチンを付加されたタンパク質はプロテアソームという酵素により分解される運命をたどる。