2023年11月15日
東大など、強磁性半導体が示す特異なふるまい解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:東京大学

 東京大学大学院工学系研究科の大矢忍教授らの研究グループは15日、産総研、大阪大と共同で、強磁性半導体(Ga,Mn)Asで電気伝導特性が特異なふるまいを示す原因を第一原理計算によって解明したと発表した。

 報化社会の進展に伴い、電荷とスピンという2つの自由度を一度に利用する技術であるスピントロニクスの研究が盛んだが、磁性半導体はそうしたスピントロニクス材料の一種で、半導体と磁性体両方の特性を同時に持つ材料として知られている。
 
 強磁性半導体は応用例として「信号を制御するだけでなく情報の記憶もできるトランジスタ」などの高機能デバイスの創出が期待されている。デバイスの実用化を考える際には、動作温度における電気伝導特性が重要な指標となる。一般に、金属の電気抵抗率(電流の流れにくさ)は温度が上昇すると増大し、半導体では温度の上昇に伴い電気抵抗率は減少する。
 
 最も有名な強磁性半導体の1つである(Ga,Mn)Asは変わった電気伝導特性を持っていることで知られ、低温では金属的なふるまい、高温では半導体的なふるまいを示す。だが、このような特異なふるまいの原因は謎のままだった。
 
 今回研究チームは新たに開発した「有限温度における電気伝導特性を予測可能な第一原理計算手法」を使い、低温ではスピンゆらぎが、高温では原子振動の効果がそれぞれ優位に働いていることを明らかにした。
 
 (Ga,Mn)Asにおける特異なふるまいは30年の長きにわたり謎とされてきたので、本結果は強磁性半導体の応用開発につながる重大な成果であるといえる。また、今回開発された新手法は強磁性半導体以外の材料系にも適用することができるため、あらゆる分野で材料開発の時間短縮や低コスト化に貢献することが期待される。
本研究成果は11月14日に科学誌「APL Materials」オンライン版に掲載された。