2024年01月31日
北大「イルカの音響脂肪は筋肉だった」
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:北海道大学

 北海道大学大学院 水産科学研究院の松石隆教授の研究グループは30日、鯨類(イルカ、クジラ等)が頭部に持つ「音響脂肪」が、陸生動物が持つ咀嚼筋などの頭部筋肉に由来することを解明したと発表した。

 鯨類は約5000万年前に海洋環境へ進出した哺乳類で、多様な新奇形質を進化させることで、水中生活を送ってきた。例えばあしを失った代わりにひれを得たり、体毛の代わりに泳ぎに適した滑らかな皮膚を得たりしてきた。何かを失い、別の機能を獲得する「トレードオフ進化」を遂げてきたことになる。

 鯨類の優れた新奇形質には高度な聴覚がある。鯨類の耳の穴はふさがっているため、顔面に届いた音は皮膚を超えて内耳に届く必要があるが、脂肪は音波を伝えやすい。鯨類の頭部は「音響脂肪」という脂肪で満たされている。
 
 研究グループはイルカの2種について、音響脂肪を含む様々な組織の遺伝子発現解析を実施した。その結果、音響脂肪の遺伝子発現パターンは、純粋な脂肪と筋肉の中間的なパターンを示した。つまり、音響脂肪は、もともとは筋肉だったのである。

 鯨類は水中で効率よく採餌するため獲物を丸呑みにする。それによって噛むための筋肉を必要としなくなり、それが音を伝える筋内脂肪に取って代わった。つまり、丸呑み型採餌と聴覚進化の間にトレードオフ進化が起きたのである。今回の発見は、海洋進出進化のメカニズムを知ることに繋がり、ヒトを含む哺乳類の筋肉と脂肪の関係についての理解の新たな手がかりになる。
 本研究成果は1月13日公開の遺伝学専門誌「Gene」誌にオンライン掲載された。
 
(詳細)
https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/240130_pr.pdf