問題山積「IT化の進路」 過剰インフラ、不況誘発、制度改革、生産効率化の限界、セキュリティ

佐藤光翔


 IT(情報技術)がわが国の社会にどれだけ定着したのか、通信インフラは過剰になっていないか、ITが不況をもたらしていないか、などIT社会の「光と影」を問う話を聞いた。
 
 世界的な視点でみれば、ITはすでに生産性がなくなり、通信のメルトダウンの懸念さえあるとの指摘もでているなかで、IT産業が抱える問題とは何なのか、ピックアップしてみた。
 
1.ITは昨年の春ごろまで経済社会、民生を発展させる原動力になるともてはやされたが最近ではマスメディアをはじめ、熱気が薄れている。実態はどうか。競争に晒されてきた電子、自動車などの産業ではIT化が急速に進んだ。しかし流通、金融などのサービス分野では遅れている。わが国ではどちらかといえば製造業だけにとどまっている。

 ドット・コムはアダ花なのか。経済の生産性の効率化という点では進んだ。しかし、中間管理職をリストラするだけに終っていないだろうか。ITが進むと社長のまわりにいる人達はたしかにいらなくなるが、これらの人々を再教育とか、生涯教育をやって付加価値のでるところにまわすとか、社会的な活動の場を与えるというのでなければネガティブな状態になる。
 
 CIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)とかいうポジションをつくってはいるが、経験と自信のない、つまり“情報”がわかっていない人が就くのだから役に立たない。もともと中間管理職は付加価値を生みだす人ではない。ITの既存産業の効率化の意義は大きいが、ITの活用は企業改革なしには進まない。中間管理職をITに替えるだけの効率化なら製造業では、もうこれ以上のIT化は不要なところまできている。また、金融や流通のような保護された産業ではITの普及は遅い。
 
 電子政府とかいわれているが、ホームページを利用した情報発信、意見聴取は進んだ。ところが業務の見直しや効率化は遅れている。
 
 80年代に経済の運営がうまく行っていた日本やドイツ、フランス、イタリアなどがITに遅れ、低迷していたアメリカ、北欧、オーストラリアがITを駆使して、活性化をはかったいきさつからして、わが国としては加熱せざるをえなかったとといえるだろう。
 
1.通信インフラでは、NTTを含め通信産業が存立を問われている。世界の通信企業の大量倒産もありうるのである。フランスのテレコムは再国営化をうわさされているし、アメリカでは不正会計を問われた企業がでている。ITには通信が基本的にかかわっており、パラダイムの変更、とくにパラダイムソフトの変化が求められている。

 90年代の過剰投資によってブロードバンド(高速大容量)通信インフラはすでに過剰になって、欧米では稼働率1%とさえいわれている。日本では光ファイバーを使用したインフラ投資が活発化しているものの、ISDNを含めて世界の非常識となっている。

 通信産業のほかに電力、道路、鉄道なども参入し、さらに過当競争が見込まれる状況にある。付加価値がインフラからサービス、コンテントに移行している現実も見直す必要がある。ADSL、FTTH、3G、無線LANの選択も課題。
 
1.先進国と後進国、金持ちと貧乏人、都市と地方、教育の高低、男性と女性、若者と年寄りなどの格差に対して、すべての人がITからメリットを得るためにはどうすればよいか。まず、通信の料金が高すぎる。ナローバンドでなく通信回線、電話回線の解放問題もある。セキュリティ対策も必要だ。

1.ITによる遠隔教育、遠隔医療、在宅勤務は制度改革が無い限り、ただの夢物語である。どうして料金の支払いを受けるのか、何時間働いたのか、などどんなアウトプットにするか、ヒューマンウェアだ。<佐藤光翔>

2002年07月15日掲載