アセアン政策対話と当面の行政課題


通産省基礎産業局 化学課長

西出 徹雄 氏

T.NISIDE

 

アセアン各国の間には石油化学工業に対する投資意欲がいぜん根強いが「調和のとれた発展」を考えていこうという通産省のアセアン政策対話構想が一歩実現、6月の第1回に続いて9月には2回目の会合が開催される。中心になって取り組んできた西出課長は「各国の認識は深まっている」と今後が楽しみなようだ。国内も含めて当面している政策課題をきいてみた。

−アセアン政策対話は、アジア経済危機の後だけに、タイミングがいいという声がきかれています。
 でも、その前から、経済的つながりの深い各国との間に、きちんとした政策的な議論ができるチャンネルがほしいとという問題意識はあった。だが当時は市場規模が拡大している時だったし、各国とも自分のところは何をやろうかと、そこにばかり関心が集中していて、こちらから呼びかけても応じられる雰囲気出はなかった。自動車とか家電などの業界は、それぞれでていった国で産業の中核的存在になっているから、地元企業を加えて議論する場ができていたが、石油化学はそこまでいっていない。それがアジア経済危機の起こった97年夏以降、雰囲気が変わった。経済が深刻な中で冷静に自らの計画を見直そう、アジア全体あるいは世界の石化業界がどう動いているか、もう一度見てみようというようになってきた。そういう中で化学産業専門家会合がAMEICCの下に新設され、第1回会合が開催された。タイミングとしては非常によかった。
−会合の目的はどこにあるのですか。
 一つは、日本にとってアセアン、アジア地域とは深いつながりがある。その中で日本の石化産業がどんな活動をしていこうとしているのか、そのプレゼンスなどを知ってもらうことは大事だ。欧米企業はすでに世界戦略の中でアジア市場に対しても一定の位置づけを行っている。それを可能にする情報システム、ネットワーク技術ももっている。日本は世界マーケットの中でとくにつながりの深いアジアは重要な市場として位置づけていかないといけない。日本の各社は世界の中で高いシェアをもっているわけではない。生産規模からいっても日本全体の能力一社で超えるような企業が欧米には存在している。日本としては身近なところでどう円滑にマーケットに入っていくかはきわめて大事になる。そういう認識が必要ではないか、ということだ。
−会合ではどういうことを話し合っていくのですか。
 各国ともこれから発展していく上で共通している課題について考えていく場にしていく、というのが前提だ。地域の各国は互いにうまく発展していかないといけない。環境とか安全、ユーザーや消費者との関係など共通している課題は多い。ただ設備能力を増やしていこうとすると、総体としていろいろな問題が生じてくる。その点ではわれわれが過去に経験してきたことを生かすということがあってもいい。会合では私たちが作成した中長期の国際需給見通しを紹介したが、全体として将来にどういう姿が描けるのかは、これまで各国ともあまり見てこなかった。今後はこれなども参考にしながら議論していきたい。9月にはタイで第2回会合が予定されている。議論が進むことを期待している。
−国内の石化業界はどうでしょう。構造問題の議論は進んでいますか。
 需給ギャップの面から見れば、いまは輸出ができているから稼働率は高いし、設備過剰感もそれほど大きくはでていない。しかし、アジア、中東地区では供給力が増えているし、シンガポールではエクソンがエチレン80万をはじめ、川下分野で大規模な事業展開を進めている。日本の石化業界はそういった新設の、効率のいいプラントに対してどこまで競争力が維持できるかだ。プラント自体過剰かどうかというより、いかに効率よく使っていくか。間接部門も含めてどこまでコスト削減できるかということだ。東南アジアや中東地区では巨大コンプレックスを建設し競争力を強化していくことに強い関心をもっている。国内ではプラントの規模だけでなく、メンテナンスなどの分野でも共同化し、合理的にやっていけないか、政府としても間に入って企業間の話し合いが進むよう考えていきたい。
−研究開発力の強化も課題になりますね。
 研究開発はますます重要になってくる。スペシャリティ商品の開発はこれからも進むだろう。メタロセンのように世代が変わるといった大型技術も出てきている。また、もっと地味なプロセス改良研究のようなことも当然行われていくと思う。ただ新しい商品が出てくるのはいいが、使う側からすれば、いろいろな性能に対するニーズのほかに、あとのリサイクルのことも考えてほしい。循環型経済社会の構築にマッチしたものであってほしいという要求も強まってくる。三つの>、つまり「リデュース」減量化、「リユース」長寿命化、「リサイクル」再利用の三つがキーワードになる。素材メーカーの取り組む開発課題もこれからは変わってくるわけだ。循環型経済社会構築というのは、通産省としても非常に大きなテーマだし、化学産業が果たす役割は大きい。これには積極的に取り組んでほしいと思っている。