2021年01月20日
宇部興産、深海底でのセメント劣化機構 解明
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宇部興産は20日、(国研)港湾空港技術研究所と共同で、深海底でのセメント系材料の利用拡大を目的とした、セメントモルタル暴露試験を実施し、その劣化機構を調査、分析したと発表した。
また、その研究論文が1月15日付の国際学術誌「Cement and Concrete Research」にオンライン掲載された。

“深海”は人類最後のフロンティアといわれ、最近、多くの海洋資源が発見されている。波浪や風力など海洋エネルギーの利用研究も活発化している。こうした背景から、将来的には深海域における海洋構造物の建設も予想され、汎用性・耐久性に優れたセメント系材料の開発・利用も期待されている。


研究は、2015年12月から2017年7月にかけて、沖縄県多良間島沖約60km の海底約1,680m の地域の、セメントモルタル試験体を対象に暴露試験を行った。海洋研究開発機構(JAMSTEC)と高知大学の協力を得た。

設置環境は水圧約17MPa、水温約4℃と過酷。608 日後に試験体を回収したところ、試験体の表層が際立って変化し、手で触ると表層の一部がはがれ落ちるほどに柔らかい組織に変化していた。圧縮強さを試験したところ、暴露前と比較して著しい強度低下が確認された。

暴露試験後の試験体を分析した結果、試験体を構成する主要な成分であるカルシウムが浅海域では予想できないほど著しく溶脱していることが明らかとなった。さらに、海水中の炭酸イオンや硫酸イオン、マグネシウムイオンが試験体に浸入し、新たに脆弱な水和物を生成したことで、試験体表層の形状が変化し、強度低下など物理的特性の変化をもたらしたと結論付けられた。

今回の研究では、主に化学的な劣化に着目して考察したが、深海域で高水圧が試験体に与えるダメージについてはさらに詳しい検証が必要と考えられる。高水圧の影響と化学的な劣化との関係について、さらに詳しく検討していく予定だ。


ニュースリリース
https://www.chem-t.com/fax/images/tmp_file1_1611109173.pdf